久石譲が生みだす音楽とは?『二ノ国』フルオーケストラの収録現場に潜入!
アニメーション映画『二ノ国』(8月23日公開)に、日本を代表するクリエイターたちが集結した。ゲーム版に引き続き音楽を担うのは、『千と千尋の神隠し』(01)などスタジオジブリ作品はじめ数々の映画音楽で世界にその名を轟かせる久石譲。Movie Walkerでは、久石が指揮棒を振るオーケストラのレコーディング現場に潜入。巨匠の驚くべきリーダーシップに導かれ、心震わす音楽が生まれていく瞬間に立ち会った。
レベルファイブの日野晃博が製作総指揮・原案・脚本を担当し、スタジオジブリの鬼才と言われ、『火垂るの墓』(88)の原画や『もののけ姫』(97)のCG制作などを手掛けてきた百瀬義行が監督を務める本作。親友同士の高校生、ユウとハル。そしてハルの恋人コトナ。いつも一緒の3人だったが、ある日コトナが謎の男に襲われ、瀕死の重傷を負ってしまう。コトナを救うべく、ユウとハルが迷い込んだのは魔法の世界“二ノ国”。2人はそこでコトナそっくりのアーシャ姫と出会う。どうやら現実世界“一ノ国”と命がつながっている、もう一人の自分が存在するようだ。「どちらかの命を救うためには、もう一方が死ぬ」という残酷なルールを知ったユウとハルは、究極の命の選択を迫られていく…。
一の国と二ノ国のシーンでは、「一の国はリアルワールド。二ノ国はファンタジーの世界。一の国は小さな編成で、二ノ国はフルオーケストラで音楽を作りました」と使う音楽を厳密に分けたという久石。記者が訪れたのは、二ノ国のシーンで流れるフルオーケストラのレコーディング現場。弦楽器、管楽器、打楽器の日本トップクラスの奏者がズラリと集合。緊張感と熱気があふれるなか、久石が指揮棒を振り、ザッと音が鳴り響くと美しく壮大な旋律に胸震える思いがした。
久石が「いいですね、いまの感じすばらしいです」と奏者に声をかけながら、演奏が進んでいくのが印象的。「もっと前に出て」「ここまではリズミックに。ここから穏やかに」と細かくこだわりを指示すると、まさに“打てば響く”といったように久石の声に応えていくメンバー。讃えるところは讃える一方、妥協せずにビシッと要求を投げかけるなど、メリハリの効いたプロのやり取りに目を奪われる。驚くべきは、久石の“判断の速さ”と“チームをまとめ上げる力”。「じゃあ、録っちゃいましょう!」「休憩入れましょう」など誰もが久石の一言一言に耳を傾け、頼もしいリーダーのもと抜群の一体感を生みだしていた。
この日だけで、かなりの曲数を収録。疲れなど一切見せず、楽しそうに指揮棒を振っていた久石。なんともエネルギッシュだが、楽しさの理由は奏者たちのパワーにあった様子。「今回レコーディングに来ている人たちは、オーケストラでも首席奏者クラス、トップクラスなんです。ミュージシャンがすばらしい。ものすごく助かりました。きちんと音楽上でコミュニケーションを取れる人たちとご一緒できて、僕自身も本当に楽しかったです」と充実感もいっぱいだ。
現場では、二ノ国のメインテーマも演奏されていたが、勇ましさと迫力に満ちた、未知の国にやってきた旅の幕開けを感じさせる1曲だった。いつも久石が映画音楽を作る時には、観客に寄り添うことを基本にしているそうだが、「今回はエンタテインメント。久しぶりに状況や人物の心情に添って作りました」とのこと。「全体的にリズミックに仕上げて、観る側がワクワクするようにしたいとも思っていました。そこはチャレンジでしたね」とストーリーを読み込み、ゲームからまた新たな気持ちで楽曲制作に挑んだと話す。
製作総指揮/原案・脚本の日野とも、あらゆる話し合いを重ねたという。「日野さんとコミュニケーションをとることで、新しい表現も考えたり。自分だけではやらないこともやってみたりするので、いろいろな発見があってすごく楽しいです」と刺激もあったとか。「今年の2月にパリでコンサートをやっている時も、新聞などのインタビューを受けたんですが、みんな『二ノ国』のことを知っているんですよね。日本国内のみではなく、海外でも認知されているゲームだった。その映画化ということで、みんな期待も持っていますから。希望としては、日本だけでなく海外も含めて、自分の音楽が映画と共にたくさんの方々に聞いてもらえたら、すごくうれしいです」と公開を待ち望んでいた。
取材・文/成田 おり枝