『冷たい熱帯魚』園子温監督が「僕はもう観客に癒しも慰めも与えない」
奇才・園子温監督の最新作は、実際に起こった猟奇殺人事件をモチーフにした『冷たい熱帯魚』(1月29日公開)。毎回、作品を発表するごとに熱い視線を浴びる園監督作だが、本作はあまりにもやばい内容から猛毒エンターテインメント作品と言われている。今回、園監督にインタビューしたら、孤高の作家スピリットを赤裸々に語ってくれた。
小さな熱帯魚店の店主・社本信行(吹越満)は、ある日、同業者の大型熱帯魚店の店主・村田幸雄(でんでん)と出会い、家族ぐるみで付き合うようになる。しかし、やがて社本は村田の恐ろしい裏の顔に気付いていく。
まず、埼玉愛犬家連続殺人事件などの実話がベースとなった本作を手がけた理由について聞いてみた。「『愛のむきだし』(08)以降、踏ん切りをつけて再デビューしたくて、題材を探していたんです。再デビューにあたっては、嘘偽りのない映画を撮り続けようと。僕はもう観客に癒しも慰めも与えなくて、残酷な事実だけを提供します、というピュアな気持ち、初心に戻って映画を作りたいと思った時、この題材に出会ったんです」。
何とも園監督の思いがむきだしになった答えだ。『愛のむきだし』は絶賛された映画だが、監督は評価されること自体、嫌いなのだろうか? 「『愛のむきだし』で多くの人が僕のことを勘違いし、愛を信じてポップな楽しい映画を作る人だと思い込んでしまったようなので、今回初心に戻りたいと思ったわけです」。
そこで目指したのが、園監督の言うところの救いがない映画なのか? 「でも、みんなを救いがない気持ちにさせたいと思ったわけじゃないんです。僕の好きな映画は救いのない映画が多いけど、それを見て救いがなくなったことは一度もないし。逆に僕の場合、いかにも応援歌みたいな映画や癒し系の映画を見ると、暗い気持ちになります(笑)」。
実際、『冷たい熱帯魚』は猟奇殺人鬼を描いたハードな内容だが、見終わった後、なぜかすかっとする気持ちになった。その着地点は狙ったものなのかと聞くと、園監督はあっさり否定する。「全然計算してないですね。ただ純粋な気持ちで映画を作っただけ。結果的に笑いが出たり、パワーを与える内容になったとしたらそれはそれ。泣かすためだったり、感動するという謳い文句を全面に出すために作ることはありません。でも、自分を癒そうとは思っていました。当時、精神状態が悪くて、ひどく参っていたので。街角を歩いていても、警官が神父に見えて、何もしてないけど、自分を捕まえてほしいと思ったくらい。でも、凶悪なことはしたくないし。僕に映画があって本当に良かったなと思います(笑)」。
そんな思いを込めて撮った『冷たい熱帯魚』は、大胆不敵で突き抜けた映画に仕上がった。「僕はいつも食べ物に例えるんですが、辛いカレーが好きな人々がいるとして、普通、日本映画のプロデューサーなら、最初は意欲満々で辛すぎるカレー屋さんという噂を都内に広めようとするんです。でも、辛いだけだと客層が狭まるから、マイルドなカレーもやろう。終いにはうどんも寿司もやろうみたいなことになる。それでターゲットを絞れない映画になるんです。でも僕は、辛い好きの層、アンダーグラウンド層的な観客数は相当いると思っていて。そういう意味で本作は、かなり客層を絞り込んだビターな映画になっています」。
どこまでも我が道を行き、撮りたい映画を撮るという姿勢を貫く園監督。とはいえ、その実力から大作のオファーもたくさん来るのでは?という質問を振ってみると、「作品によってはオファーをお断りすることもあります」とのこと。「台本を読んだ時点で良し悪しは分かるので、判断はすぐできます。台本に少しでも魅力があればそこを改善し、その上で役者の力を最大限に引き出せば、化学反応が起こる可能性は十分にあるはずです。魅力を感じない作品でも、やれば生活費はいただけるかもしれないけど、長い目でみれば今後が怪しくなるので」。
歯に衣着せぬ園節、絶“口”調だ。さらに監督は続ける。「メジャー作品でも良いものならやらせていただきたいが、自分で隅から隅までチェックしていかないと。後、違う方向へ行ったら、いつでも降りられる体制で挑まないと駄目です」。
作品だけではなく、園監督自身も相当面白い。主演の吹越満が天才アーティストと称し、「園監督自身が作品!」と言っていたのも納得だ。今後もその不屈の精神で、園監督にしか撮れない作品を発信し続けてほしいものだ。【Movie Walker/山崎伸子】