カリフォルニア州がハリウッド再興の鍵?Netflixやディズニーが相次ぎ流れ込むワケ

映画ニュース

カリフォルニア州がハリウッド再興の鍵?Netflixやディズニーが相次ぎ流れ込むワケ

カリフォルニア州の施策でハリウッド再興となるか?
カリフォルニア州の施策でハリウッド再興となるか?写真:SPLASH/アフロ

アメリカで映画のロケ地と言えばどこを思い浮かべるだろうか?洋画でよく見るように、ニューヨーク州などで撮影されることが多いが、実は最近は、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(公開中)や『キャプテン・マーベル』(19)など、カリフォルニア州で製作されたものが急増している。米映像業界で近年なにが起きているのか、その経緯を振り返ってみたい。

現在カリフォルニア州では、映像産業に対して年間3億3000万ドル(およそ350億円)のタックス・クレジット(補助金、税額控除措置)が割り当てられている。そして州が定める項目で適格とされたプロダクションには、州内で費やされた制作費の最大25%が還元されている。最近カリフォルニア州のタックス・クレジットを適用して製作された作品には、先に挙げた2作のほか、『バンブルビー』(19)、テレビドラマでは「グッドガールズ: 崖っぷちの女たち」、「スニーキー・ピート」、「レギオン」などが挙げられる。そんななか、ジョージア州やアラバマ州を離れてカリフォルニアに移行してきたプロダクションに対して毎年合計5000万ドル(約53億円)のタックス・クレジットを提供する法案も成立の可能性を高めている。その背景には、有名俳優やセレブたちも話題に上げていた、ある社会問題があった。

米国南部では去年から今年にかけて、女性の妊娠中絶を規制する法案や法律が次々と成立している。今年の5月15日には、妊娠中絶をほぼ全面的に違法化する全米で最も厳しい中絶禁止法がアラバマ州で成立した。それは性犯罪や近親相姦による妊娠でも中絶手術を試みた医師には10年以上、実際に中絶手術を施した医師には最大で99年という、殺人罪にも匹敵する禁錮刑が科せられるというものだ。

また、ミシシッピ州やオハイオ州、ルイジアナ州でも、胎児の心音が確認できる段階(およそ6週目以降)の妊娠中絶を禁止する、「心音法」(ハートビート・バン)が成立。このような法律は、1973年にアメリカ合衆国の最高裁判所が下したロー対ウェード判決(女性は妊娠中絶を選択する憲法上の権利を有すると定めた原則)に反するとし、「プロ・チョイス」(避妊および中絶の、個人の決断の自由に賛成する派)と、「プロ・ライフ」(中絶反対派)が激しい論議を巻き起こしている。現在これらの中絶規制法は連邦裁判所によって差し止められているが、今後連邦判決が覆された場合、国家レベルで施行されることになる。

この問題は、映画やテレビ、ファッションといった様々な業界にも影響を及ぼしている。女優のエマ・ワトソン、ソフィー・ターナーや、ミュージシャンのレディー・ガガなど、多くのセレブが中絶規制法に対する反論をSNSを通して発信。また最近第3子の妊娠が発覚した女優ミラ・ジョヴォヴィッチも、「心音法」に対してインスタグラムで懸念と反論の意見を表明した。彼女自身も、健康上の理由で約2年前に妊娠4か月半で緊急の中絶手術を受けていたことを公表。正規の医師による安全な中絶手術が受けられる権利の保持をする大切さを、自身の写真を添えて訴えた。ジョヴォヴィッチは、「中絶は最悪の悪夢。これを自ら経験したいと思う女性なんていない。けれど中絶がどうしても必要なときに安全な処置を受けられる権利を保持するためには、闘わなくてはいけない」とコメントしている。

「生殖の自由のために闘い続けます」とメッセージを綴ったエマ・ワトソン
「生殖の自由のために闘い続けます」とメッセージを綴ったエマ・ワトソン画像はEmma Watson(@emmawatson)公式Instagramのスクリーンショット

またNetflixはジョージア州で中絶規制法が施行された場合、同州で製作されている「ストレンジャー・シングス」などを撤退させる可能性を示唆している。Netflixの最高コンテンツ責任者のテッド・サランドスは、米バラエティ誌で発表した声明文で、「ジョージア州では多くの女性スタッフが弊社の作品の制作に携わっており、彼女たちを含め何百万もの女性たちの権利がこの法律によって著しく脅かされます。そのため、私たちNetflixはアメリカ自由人権協会(ACLU)に協力し、法廷で争おうとしています。法律が未だ施行されていないので、現段階ではジョージア州での作品製作を継続しますが、同時にジョージア州での仕事を拒否するパートナーやアーティストも支持します。規制法が施行された場合、ジョージア州への弊社のあらゆる投資を再考します」と、中絶規制法に抗議する方針を示している。またNetflixに加えて、ディズニーやワーナー・ブラザースなどの大手企業も、同様の発表を行っている。

これをうけてカリフォルニア州では、「心音法」が成立したジョージア州やアラバマ州を離れてカリフォルニアに移行してきたプロダクションに対して、州から毎年合計5000万ドル(約53億円) のタックス・クレジットを提供する法案“AB-1442”「Share Our Values Bill」(価値観の共有法案)が提案された。同法案は、米国時間8月14日に上院財政委員会を通過して上院歳出委員会に提出され、成立する可能性がぐっと高まっている。

この法案を作成したカリフォルニア州39区の議員、ルズ・リヴァスは、「カリフォルニア州は、女性は自分のからだをコントロールする権利がある大切な存在だという信念を持っています。カリフォルニア州から映画産業を組織的に誘引した州は、昔から現在に至るまで女性の権利を侵害し続けています。AB-1442は、映画業界は女性を支持するという価値観を共有するとともに、州に重要な雇用機会を取り戻すのです」と語る。

”AB-1442”「Share Our Values Bill」が成立し、今後5年間で合計2億5000万ドル(約266億円) のタックス・クレジットが発行されると、州におよそ1兆950億円の経済効果がもたらされ、キャスト6000人、撮影スタッフ9000人近くに雇用機会が設けられるだろうと推測されている。

はたしてカリフォルニア州は、「プロ・チョイス」を唱えることで州外に拡散してしまったプロダクションを呼び戻し、ハリウッドを再興させることができるのだろうか。

LA在住/小池かおる

作品情報へ