ヤン・ヨンヒ監督、計画停電や節電を行う日本に「遠くを見るためには明かりを消すことも必要」
在日二世の映像作家ヤン・ヨンヒ監督が、1970年代に行われた帰国事業で北朝鮮に移住した3人の兄と姪ソナの日常を追ったドキュメンタリー『愛しきソナ』(公開中)。その初日舞台挨拶が4月2日、ポレポレ東中野で行われ、ヤン・ヨンヒ監督が登壇した。
この日は、福島原発の電力供給量のレベル低下により、計画停電の続行が予想されるなか、「みんなで停電を明るく乗り切ろう!」という趣旨で、映画の内容に絡め“停電中の楽しい過ごし方”について語るトークを展開。東日本大震災を受け、「被災地に比べて恵まれている環境のなかで、何ができるのか考えた」と話し、「北朝鮮にいる家族は、母の送る荷物によって周りに比べ裕福です。それでも、電気は止まり、寒いなか生活をしている状況は、想像がつかないくらい過酷です。北朝鮮と被災地を一緒にするのも良くないですが、日本中の人たちが被災地に物資を送っている姿を見て、北朝鮮に荷物を送る母の姿とだぶって見えました」と感慨深げな表情をのぞかせた。
本作を製作するきっかけを「北朝鮮の兄から、女の子が生まれたと写真が送られてきたのがソナでした。兄弟たちに囲まれて写っているソナの姿は、まるで小さい頃の自分を見ているようで嬉しく、自分の分身であるソナを撮りたいと思いました」と明かした。
劇中の中にも映っていない、北朝鮮の日常を問われ、「この映画は、ドキュメンタリーと言いながらも、やはり表面的な映像です。みんな、私が北朝鮮に行くと色々な料理でもてなし、贅沢させてくれる。普段の生活は、韓国人と同じようにスキンシップも好きだし、政治の話はタブーな分、おじちゃんなんかは猥談も好きですよ(笑)。生活水準はピンキリだし、今は表面では社会主義と言いながら、資本主義とのダブルスタンダードになっています」と、日本の報道からは想像ができない北朝鮮の姿を語った。現在、首都圏は計画停電の影響から、都内の繁華街からも明かりが消えているが、「暗くなった東京って良いと思います。電気の明かりで明るいと、目の前のものは見えても、未来が見えない。電気を消してみると、近くは見えづらくても、五感を働かせて、遠くを見るようになる。今まで、目の前だけが明るかったんだなあと気付きました。遠くを見るためには、明かりを消すことも必要だと思いました」と、独自の意見を述べ、観客を納得させた。【Movie Walker】