山崎まさよしが語る「One more time, One more chance」がつないだ“奇跡”

インタビュー

山崎まさよしが語る「One more time, One more chance」がつないだ“奇跡”

14年ぶりに長編映画の主演を務めた山崎まさよし
14年ぶりに長編映画の主演を務めた山崎まさよし撮影/成田おり枝 ヘアメイク/三原結花(M-FLAGS) スタイリング/宮崎まどか

シンガーソングライターの山崎まさよしが主演を務めた映画『影踏み』が公開中だ。当時、演技未経験ながら初主演を果たした『月とキャベツ』(96)の公開から23年。再び篠原哲雄監督とタッグを組んで完成した『影踏み』について、「いろいろな巡り合わせがあって、ここまでたどり着いた。篠原監督との出会いがなければ、いまの僕はない」と感無量の面持ちを見せる山崎。『月とキャベツ』の主題歌で、いまなお幅広い世代に愛されている名曲「One more time, One more chance」がつないだ“奇跡”について語ってもらった。

【写真を見る】相棒役を務めるのは、若手人気俳優の北村匠海!息の合ったやり取りにも注目だ
【写真を見る】相棒役を務めるのは、若手人気俳優の北村匠海!息の合ったやり取りにも注目だ[C]2019「影踏み」製作委員会

ミステリー作家、横山秀夫の原作を映画化した本作。山崎が演じるのは、孤高の窃盗犯、真壁修一役。深夜に人のいる住宅に忍び込んで盗みを働く泥棒、通称“ノビ師”だったが、ある夜に目撃した事件をきっかけに逮捕されてしまう。刑期を終えた修一は、彼を慕う若者の啓二(北村匠海)と共に事件の真相を調べ始めるが、その矢先に予期せぬ新たな事件が起きる…。

「『月とキャベツ』という作品がつないでくれた縁」

本作の企画は、『月とキャベツ』が毎年かかさず上映されている、群馬県の「伊参スタジオ映画祭」で山崎と篠原監督が再会。そこに群馬県出身の小説家として「伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞」の審査員を務めていた横山が加わり、意気投合したことから始まった。山崎は「僕はもともと横山先生の大ファンだったんです。横山先生が『伊参スタジオ映画祭』にいらっしゃっているということで、控え室に挨拶に行かせていただいて。以前から『月とキャベツ』のチームでなにかやりたいねという話はしていたんですが、3人で盛り上がって話をしているうちに『篠原哲雄監督と山崎の主演で、横山秀夫先生の原作を映画化しよう』という話になった」と瞬く間に夢のようなプランが立ち上がったそう。

「『月とキャベツ』という、20年以上前に公開された作品がつないでくれた縁」と喜びをにじませるが、その結果、横山が提案してきたのが『影踏み』の映画化だ。山崎は「横山先生の原作はすべて読んでいますので、『影踏み』ももちろん読んでいました。横山先生に『映像化されていない原作はありますか?』と伺っていたところ、後日『山崎さんには「影踏み」がいいと思う。どうでしょう』とおっしゃってくださって。僕はもう二つ返事ですよ。なんて言ったって、大ファンですから」とニッコリ。

長編映画の主演は『8月のクリスマス』(05)以来、14年ぶりとなり「僕はプロの俳優ではないし、俳優としての方法論も持っていませんので、『本当に僕で大丈夫かな』という気持ちもあった」というものの、3人のすばらしい出会いが招いた企画に乗らない手はない。また主人公が孤高のダークヒーローという役柄だったことも、山崎の背中を押した。「警察官僚や弁護士の役だったら、きっと無理だったでしょうね。泥棒役ならばいけるんじゃないかと。真壁修一は職人気質の泥棒ですが、僕と同じくソロ活動で(笑)。泥棒の世界のことはわかりませんが、僕が演じても不自然にはならないのかなと思いました」。

「映像を一番に大事に考えて、音楽はシンプルなほうがいい」

自転車が印象的なアイテムとして登場する
自転車が印象的なアイテムとして登場する[C]2019「影踏み」製作委員会

主演だけでなく、劇中音楽と主題歌「影踏み」も手掛けた。初めて主演、劇中音楽と主題歌を経験したのも『月とキャベツ』だったが、「今年デビュー25周年目突入というアニバーサリーの時に、こういったお仕事をやらせていただけてうれしい」としみじみ。

劇中音楽については「尾野真千子さん演じる久子のシーンは優しい楽曲にするなど、登場人物の人柄をテーマにして曲を作っています。またクライマックスで家族の関係性が描かれる大事なシーンがありますが、そこではボーイ・ソプラノを用いています。サウンドトラックとして歌ものが入るのは珍しいですが、映画音楽としての醍醐味も感じられるシーンになったと思います」と自信をのぞかせ、「ラッシュ映像を何度も見ながら音楽を作っていきましたが、真壁修一を演じたことで、物語や土地の空気を肌で感じていたので、そういった実感も音楽に影響していると思います」と語る。

映画音楽を作る上で大事にしているのは、「映像の邪魔をしてはいけない」ということ。「僕自身の楽曲を作る時は、聴いた人が音楽から映像を想像できるような曲にしたいと思っています。でも映画音楽の場合は、もう映像があるわけですから。映像を一番に大事に考えて、音楽はシンプルな方がいいと思っています」と持論を展開。映画を締めくくる主題歌の「影踏み」については、「本編では描かれなかった、子どもたち2人のノスタルジックな情景を歌詞に落とし込んでみました」と想像を膨らませるなど、こちらも映像から音楽を誕生させたという。

「『One more time, One more chance』には物語を引き寄せる力があるのかもしれない」

世代を超えて愛される名曲について語った
世代を超えて愛される名曲について語った

一方、『月とキャベツ』では、主題歌となった「One more time, One more chance」が映画のオファーよりも前に出来上がっていたという。『月とキャベツ』は同曲が生まれるまでを描いたラブストーリーで、映画になくてはならない1曲としてストーリーとの親和性の高さに驚くが、山崎は「確か、篠原監督から『あの曲を使わせてほしい』という話になって、少し脚本も変わっていったんじゃないかな」と述懐。

「もともと原案となっていたシナリオがあったんですが、その時点のストーリーも『One more time, One more chance』と、あまりにもリンクしていた。呼び合ったというか、不思議な巡り合わせを感じました」と山崎自身も“奇跡”を感じたそうで、「僕は若かったので、政治的なことはよくわからないですが(笑)、篠原監督サイドも『映画にピッタリだから使いたい』とおっしゃってくれて。当時の僕のスタッフも『この歌を歌わせてほしい』という要望があったようで、いろいろな想いが合致していたようです」と感慨と共に話す。

「One more time, One more chance」という曲が、人、そして物語を引き寄せた形だ。山崎が「その後アニメーション映画でも使っていただいて、あの歌にはどこか物語を引き寄せる力があるのかもしれません」というように、新海誠監督の『秒速5センチメートル』(07)の主題歌としてもおなじみの1曲となった。

「新海監督からは、全編で曲を使用させてほしいとのお話があって、僕はもう『どうぞ、どうぞ』と(笑)。完成した映像と曲もすごくマッチしていたし、映画を観て、新海監督はリアリティや心象風景を大事にしていらっしゃる方なんだなと強く感じました。中国でライブをすると、あの曲のイントロですごい拍手が上がるんですよ。やっぱりアニメって、世界的に人気なんだなと感じます。1曲がここまで幅広い方に愛されてもらえるようになるなんて、生みだした時はそんな予感はありませんでしたが、本当にありがたい話です」と、「One more time, One more chance」がまた新たな世界への扉を開いたことへの感激を明かす。

「篠原監督との出会いは、僕自身のキャリアにおいても大きなステップ」

「One more time, One more chance」と『月とキャベツ』から始まった、篠原監督とのコラボレーション。山崎は「もし篠原監督との出会いがなければ、音楽はやっていたにせよ、ここまでの作品としての結果は残せなかったんじゃないかと思います。『月とキャベツ』がなければ、その後に役者活動をすることもなかった。自分のキャリアとしても、ここまで幅を広げられることはできなかったと思います」と告白し、「篠原監督との出会いは、大きなステップになった」と感謝しきり。

「これからCDは売れない時代になっていくと言われていて、そういった意味でも映像から誰かに見てもらえる機会をいただけたことは大きい。映像作品というものは、映画ファンの人がいたり、劇場ファンの人がいたり、音楽を聴く人とはまた違った人の目に触れることができるもの。『月とキャベツ』がなかったら、もちろん『影踏み』にもたどり着いていませんから。『影踏み』は僕にとって宝物のような作品です」と心を込めるなど、『影踏み』は25年の歩みを噛みしめる特別な作品となったようだ。

取材・文/成田 おり枝

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