「家族のいる場所が自分の居場所」リリー=ローズ・デップが語る両親への想いとは?
「エヴにとって“大人になること”とは、欲しい男性を手に入れることですね」。フランス映画界の名匠フィリップ・ガレル監督を父に持ち、俳優としても活躍するルイ・ガレルが監督と主演を務めた『パリの恋人たち』(12月13日公開)で、主人公の青年へのままならない恋に身を焦がすエヴ役を演じたリリー=ローズ・デップは「彼女の人生全体を完全に理解することが重要だった」と、その役作りについて明かす。
「必死に大人になりたがっていた女の子の感情を、私はまだよく覚えています。若いうちは、人生は自分でコントロールできるものではないから、親の言うことに従わなくてはならなかったり、学校に行かなければならなかったりする。そしてその年齢では、“愛”というものはどれほどしたくても許されなくて、とても苦しいものです」。
『昼顔』(67)や『存在の耐えられない軽さ』(88)など、幾多の“大人のラブストーリー”を手掛けたジャン=クロード・カリエールが脚本を担当した本作で描かれるのは、2人の対照的な女性の間で揺れる不器用な男性の姿。3年間同棲したマリアンヌから、友人ポールの子どもを身ごもったことを告げら別れを切り出されたアベル。数年後、ポールの告別式でマリアンヌと再会したアベルは、そこでポールの妹エヴからも想いを告白されることになる。
「一見すると典型的な三角関係の映画に見えますが実はもっと複雑で、愛やセックス、死、家族、謎といった色々な要素が入り混じった作品」とリリー=ローズは形容する。そんな本作で、彼女が演じるエヴは長年想いを寄せていたアベルに気持ちを打ち明け、一途に慕い続けて彼を手に入れるのだが、その恋は思うように進まない。アベルが想いを寄せる兄ポールの妻マリアンヌがエレガントな大人の女性であるのに対し、エヴは若くて純粋で少女から大人になる瞬間を生きる女性として描かれており、マリアンヌに宣戦布告する気の強い一面も垣間見せるのだ。
「成人になったばかりの彼女は、ずっと楽しみにしていた“大人になること”がやっとできた。それだけに、彼女の成長過程には強い緊迫感があると感じました。アベルへの強い憧れと、彼と一緒にいられなかった年月。そこから彼女と、彼女の映画での行動を完全に理解できることと思います。物語が進むにしたがって、彼女は自信を身につける。本当に立派な女性になることには他人や、特に男性は関係ないのだと気付くことになるんです」。
ジョニー・デップとヴァネッサ・パラディという2人の大スターの娘として生まれ、 『Mr.タスク』(14)にワンシーンだけ出演して女優デビューを果たしたリリー=ローズは、その後モデル業を中心に活躍。「小さい頃から憧れていたシャネルのようなファッションブランドと一緒に仕事ができてとても感謝しています。私は母のことをすごく尊敬しているので、彼女の足跡をたどることができてとても光栄です」と、母ヴァネッサへの強い敬意をのぞかせる。
そして『Mr.タスク』のスピンオフ作品でもある『コンビニ・ウォーズ バイトJK VS ミニナチ軍団』(16)で映画初主演を飾ったのち、女優としてフランスでそのキャリアを伸ばしてきた。「アメリカとフランス、どちらにもルーツがあるのでどちらも自分の居場所。でも最終的には、家族のいる場所が自分の居場所だと思っています」と語る彼女。
「若い頃はただ母のような人になりたいと思っていました。歌手にもなりたかったし、モデルにも女優にもなりたかった。それにお姫様にもバレリーナにもなりたかったですね(笑)。女優になってみて良かったことは、様々な人間になったりいろんな仕事ができること。これからも自分のキャリアを築いていきたいと思います」と、両親の名前に頼ることなく自らの道を突き進んで行くことを誓った。
文/久保田 和馬