辛酸なめ子が心を奪われた「フォードvsフェラーリ」の魅力
漫画家でコラムニストの辛酸なめ子さん。鋭い目線で物事を切り、新聞や雑誌、ウェブメディアなどに幅広く活躍している。映画『フォードvsフェラーリ』(20年1月10日公開)の魅力をレビューしてもらった。”男臭さ”に女ごころもくすぐられると語る、本作の見どころとは?
カーレースの世界に不勉強な素人ですが、男の友情や汗や涙、そして男性ホルモンの渦に巻き込まれ、心身が震える2時間半でした。元レーサーのキャロル・シェルビーの貫禄と、気鋭のレーサー、ケン・マイルズのピュアな雰囲気が好対照で、キャラの違う2人が時にはぶつかり合い、認め合う熱いコミュニケーションにも心惹かれました。大企業内の人間ドラマが描かれているのも見どころ。24時間の耐久レースのハードさは想像もつかないですが、メカニックのスタッフやレーサーたちが泥まみれ、オイルまみれになっている姿にもときめきを感じました。まさにレースは自分との戦いで、ありふれたアクション映画よりも哲学的。『7000回転の世界はマシンが消え、肉体だけが残り、時間と空間を移動する』というマイルズの詩的な言葉が心に残ります。ゾーンに入って、無の境地に近づいている表情のかっこよさにしびれました。レースシーンや友情ドラマ、家族愛など感動のシーンが満載。なによりレーシングカーのエキゾーストサウンドと振動が全身を駆け巡り、確実に血行がよくなった感があります。
男向け熱血の映画と思いきや、そこには女心をくすぐる男たちの魅力がたっぷり詰まっている!マット・デイモンとクリスチャン・ベイルの熱演や、男2人を支える仲間や家族のドラマチックな関係性も見どころだ。そして、カーレースに参加しているかのようなエキゾーストサウンドに驚きの本作、是非劇場に足を運んでほしい。
文・イラスト/辛酸なめ子【月刊シネコンウォーカー】