遊川和彦が惚れた、波瑠の“孤独感”「この人には嘘がないと感じた」

インタビュー

遊川和彦が惚れた、波瑠の“孤独感”「この人には嘘がないと感じた」

波瑠と成田凌が、運命の恋人を演じる
波瑠と成田凌が、運命の恋人を演じる[c] 2020「弥生、三月」製作委員会

「家政婦のミタ」や「過保護のカホコ」「同期のサクラ」など、多くのヒットドラマを生みだしてきた稀代の脚本家、遊川和彦による第2回監督作品『弥生、三月 -君を愛した30年-』が3月20日(金・祝)より公開となる。まぶしいほどにまっすぐなヒロイン、弥生役には波瑠が抜てきされた。「この人には嘘がないと感じた」と、波瑠自身の魅力と弥生がピタリと重なったと語る遊川監督。一方の波瑠も「遊川監督の前では、嘘なんてつけない。丸裸で挑まなければいけない。そういう撮影を通して『私って、もっと頑張りたいんだ』と気づいた」と並々ならぬ信頼感を吐露する。熱いタッグについて振り返ると共に、本作からもらった“希望”について語り合ってもらった。

遊川和彦と波瑠が『弥生、三月 -君を愛した30年-』を語り合う!
遊川和彦と波瑠が『弥生、三月 -君を愛した30年-』を語り合う!撮影/黒羽政士

本作は、“2人の男女の30年間を3月だけで紡ぐ”、激動のラブストーリー。昭和、平成、令和と時代をまたぎ、互いへの想いを秘めながらも別々の道へ進んだ弥生(波瑠)と太郎(成田凌)の姿を映しだす。

「波瑠さんの持つ、“孤高感”がとても好き」(遊川監督)

強い信念を持つ女性、弥生の凛とした美しさが、本作の大きな魅力となる。脚本も手がけた遊川監督は、テレビドラマ「世界一難しい恋」での波瑠を見て、その女優力に惹きつけられたという。

「波瑠さんは、大野(智)くん演じる男性から一方的に想いを寄せられるんだけど、それに対して凛々しい態度をとっているヒロインを演じていた。それを見ていて、主人公がヒロインに惚れる理由がよくわかったんだよね」と述懐。「この人には嘘がないんじゃないかと感じた。弥生というのは、嘘があっては決していけない役。かつ、女性としての色気も必要。多くのものを要求する役で、しんどい役なんです。演じる人にはかなりのエネルギーとポテンシャルがなくてはダメだと思っていた」と波瑠に惚れ込み、弥生役を託した。

さらに遊川監督は、波瑠の持つ“孤高感”が「とても好きだ」と明かす。「弥生は、誤解されても挫けないという芯の強さがありながら、弱さも表現しなければいけない役。波瑠さんには、連続テレビ小説『あさが来た』のような明るい役のイメージがあるけれど、僕の勝手なイメージでは、人間の弱さや孤独感も持ち合わせている方だと思っていて。僕はその孤独感がとても好きなんです」。

「弥生というのは、嘘があってはいけない役」と語る
「弥生というのは、嘘があってはいけない役」と語る撮影/黒羽政士

オファーが舞い込み「脚本を読んで感動した」という波瑠だが、「実はオファーを受けるか迷っていた」と告白する。

それは「弥生という人は、理想の人でもあり、なによりも“希望”そのもののような人。こんな人にいてほしい、こんな人がいたら救われるという女性です。そんな女性を体現するということは、簡単にお引き受けることではないですから」と弥生の持つ純粋な強さに気づき、ハードルを感じたからだという。「きちんと私の想いを伝えよう」と遊川監督と話す機会を持ったものの、「お話するうちに、『これはやった方がいいんじゃないかな…』という気持ちになってきて」と明かすと、遊川監督は「だまされたの⁉」と楽しそうな笑顔。波瑠は「違うんです!」と笑い、「遊川監督と向き合っていると、これだけの熱を一つの作品に捧げられる方とご一緒する機会が、自分には必要なんじゃないかと思ったんです」と遊川監督の熱量に突き動かされた。

波瑠にとって印象深い遊川作品は、ドラマ「女王の教室」。「同世代の志田未来さんや夏帆さんが出ていらして、すごく楽しみに観ていた」というが、遊川監督とはこんな思い出も。「オーディションでご一緒したことがあって。その時は残念ながら受かることはできなかったんですが、後にも先にもないと思うような、大変なオーディションでした。“ドアの向こうにいる、心を閉ざした人を引っ張りだす”という即興芝居を求められたのですが、遊川監督が『もっと伝えろ!』とおっしゃっていて。遊川監督という方を体感した衝撃的な時間でした。だからこそ、今回の現場も覚悟して臨まなければと思っていました」。

「遊川監督の要求に、どうしても『応えたい』と思ってしまう」(波瑠)

いざ飛び込んだ遊川組。波瑠は「覚悟はしていましたが、やっぱり遊川監督から熱意を向けられると、応えざるを得ないのが、演じる側としてのサガと言いますか。『また難しいこと言っている…』と思うんですが、どうしても『応えたい』と思ってしまう」とやはり遊川監督の熱が原動力になっていたことを打ち明ける。

【写真を見る】波瑠、「遊川監督には、丸裸で挑まなければいけない」と告白!
【写真を見る】波瑠、「遊川監督には、丸裸で挑まなければいけない」と告白!撮影/黒羽政士

「ちょっとずるいですよね?」と話を向けると、遊川監督は「ずるくない、ずるくない!できるから、言っているんですよ」とコメント。「最近は『できない』と諦めてしまう人が多い。チャレンジしない人がいっぱいいるんです。周りのスタッフも、簡単にOKを出してしまう。それもよくない。『もっとありませんか?』とお願いした時に、相手の本性がわかるんです。『さらによいものを作りたい』という人なのか、『早く帰りたい』と思っている人なのか(笑)。もっと自分や作品を高めていきたいと思った方が、絶対にいいと僕は思うんだけどね」と妥協なき、ものづくりへの姿勢を語る。

波瑠は「遊川監督は必ず、役者のそばまでやってきて話をしてくださるんです。本当に難しい要求ばかりで、メモに書き留めながら『やってみよう』と思っていると、また戻ってきて、さらに演出を…。いつも行ったと思ったら、また戻ってらっしゃる(笑)」と粘り強い演出に食らいついていったそうで、「遊川監督ご自身にごまかしがないし、嘘がない。だからこそ、こちらも中途半端なことをやったらバレるし、形にはならない。こちらも裸になるしかないという感覚になるんです」と真正面から弥生役に立ち向かった。

卒業式のシーンにも注目!
卒業式のシーンにも注目![c] 2020「弥生、三月」製作委員会

「できる人」と全幅の信頼を寄せた波瑠について、遊川監督は「思っていた以上に、芝居がうまい」とニヤリ。

実感した例として、親友のサクラ(杉咲花)が亡くなり、その後に迎えた高校の卒業式で、弥生がまっすぐに前を見つめるシーンをあげる。「僕は『弥生は泣きたいけれど、泣かない』とお願いしたんです。撮影してみると、前を見つめる波瑠さんのノドがクッと動いたんですよね。あれは本当にすばらしかった。『すごくいい!あの芝居見た!?』とみんなに言いたくなったくらい(笑)。そのノドが動いた瞬間に、弥生は『泣くもんか』と決心したんだということが伝わった。そういうことができるのが波瑠さん。もう、うれしくて仕方なかった」と充実感もたっぷりだ。

「弥生は、私にとっての憧れ」(波瑠)、「自分を貫き通す人が生きにくい時代」(遊川監督)

「弥生は、私にとっての憧れ」
「弥生は、私にとっての憧れ」撮影/黒羽政士

熱い現場を通して、波瑠は大きな力をもらったとしみじみと語る。「桜の開花を狙いながら進行する撮影でもありましたので、本当に大変でした」と苦笑いを見せつつ、「嘘がつけない、ごまかしが利かない場所に立たされた時に『私って、もっと頑張りたいんだ』と気づいた。また自分で『やる』と言ったからには、それを全うしなければいけないし、自分のなかに『裏切ってはいけない』という責任感が芽生えているのもわかった。そのすべてが作品として形になっていくことが感じられました」。弥生という役柄からも刺激を受けた。「弥生の生涯は、“戦い”でもあると思うんです。自分との戦いでもあるし、間違っていると思うものに挑んでいく人。弥生を見ていると、せつなくて、痛々しくもあり、でもずっと見ていたくなるようなまぶしさがある。私にとっての憧れです」。

遊川監督は本作に込めた想いについて、「エンタテインメントでありながら、しっかりと心に残るものを作りたいと思った」と力強く語る。「いまは、自分を貫き通す人が生きにくい時代です。周りに気を使って、諦めたり、逃げたりすることも多い。でも本作の弥生とサンタ(太郎の愛称)は、支え合いながら、自分にしかできないこと貫いていこうとする。人生は基本的には辛いものかもしれませんが、弥生とサンタを通して、人生で積み重ねていくべきものを見つけてもらえたらすごくうれしいです」。

取材・文/成田 おり枝


激動のラブストーリー『弥生、三月 -君を愛した30年-』の魅力を解き明かす!

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