音のプロフェッショナルが語る映画『AKIRA』 山城祥二×名倉靖スペシャル対談【後編】
『AKIRA』4Kリマスターセットが4月24日に発売! 『AKIRA』の音楽を担当した芸能山城組の組頭、山城祥二先生と、今回パッケージのサウンド・エンジニアを務めた名倉靖氏に、“音のリアリティ”が格段に向上したという4K UHDブルーレイ版の魅力を語ってもらった。
「オリジナルをつくった方々の意図をひも解くのが狙いでした」(名倉)
――音のつくり手として、画が4K & HDRへとクオリティが上がっていったことで、音も負けてられない、画に見合った音をつくり上げる、というプレッシャーはありましたか?
名倉「僕は画より、山城先生のプレッシャーのほうが大きかったですね(笑)。でも実際に作業を始めてみると、元の素材がきちんと貼り付けられて、きちんとできている。要はそこができていないと、何をいじっても広げられないわけです。だからオリジナルをつくった方々の力量がものすごかったんだなと。それを今の時代に合わせていく。もちろん今まで観てきた方にも観てもらうことになりますが、今回の4K UHDで初めて『AKIRA』に触れる方もいるはずです。そういう方々に『AKIRA』ってこうなんですよってきちんとアプローチして、きちんと見せてあげたい。それも昔からの音で、元々こうなんだと、きちんと表現するとこうなっていると思ってもらえるのがいちばん大きいところです」
――ある意味、元の音に戻していくという感覚ですね?
名倉「僕の意識としてはそうです。きっと大元をつくられた方は、こういう意図があって、こうしたかったはず、それをひも解くかたちで再現することでした」
――当時の技術では再現できなかったことを、今なら実現できるので、こうするってことですね?
山城「あくまで推論なのですが、古い映画音楽のオーソドックスなつくり方は音の帯域を中域に集めがちなので、封切り段階では、『AKIRA』の音楽にしてはメリハリのない、古い劇伴音楽に聴こえるよう、当時のミックスが行われていたのは確かでした。その方向性を私はあまり支持できなくて、多少、意見の衝突もあったんです。名倉さんのおっしゃるように、大人しくしたくなかった。破壊的な音にしたかったんだけど、その頃の映画音楽をつくる環境では実現できなかったんですね。そういう点では可聴音自体は、今回、やっと初めて私の中で筋が通ったんです。この前のブルーレイまでは正直、気に入らないところがあった(笑)」
「音はある意味、家庭のほうが劇場より進んでしまっている」(山城)
――映画館で観る映画と、家で観る映画の違いとは、どういう点にあるとお考えですか?
山城「劇場で上映する『AKIRA』は、技術的な背景を含めてこれからが第一歩という段階だと思っています。ということは、これからすごく発展していく可能性を秘めているということです。そこが面白い。今回の4K UHDブルーレイはメディアとしては究極的なところまでいっていますから、それを劇場にどう移植できるか?劇場側にとっては、恐らく今後、10年くらいのテーマになっていくと思いますよ。つまり家庭で観る映画のほうが、ある意味、劇場よりも音が進んでしまっているということです。最もはっきりするのはスピーカー。劇場で、それぞれの客席まできちんと超高周波の豊かなハイパーソニックサウンドを伝えるにはどうすればいいんでしょう? 相当な技術的な課題があると思う。空気振動っていうのは振動数が高くなるほど飛ぶ距離が短くなっちゃうんです。劇場のような大きな空間で、スクリーンや壁から全ての客席に高周波を届かせるには途方もないエネルギーが要る。だからどこに音源を置くべきか、といった基本から考え直さないといけない。つまり映画館の構造がイノベーションの課題となるんです。映画館というかたちでの鑑賞はまだまだ続くと思いますが、その発展の先に我々が意図するものが実現するのかどうか。これが劇場で体験できるようになったら本当にすごいものになると思うんですね。映画がもう一度、息を吹き返す可能性があります」
名倉「僕のほうから補足させてもらうと、劇場は密閉された、容積の大きい空間で、大きな音から小さな音まで出せるというのが、大きな利点なわけです。ダイナミック・レンジと言いまして、その幅を大きくつくれるんです。家庭において、それをそのまま再生すると、とてもじゃないけど、大きい音はうるさい、小さい音は聴こえないとなるので、家庭用としてはダイナミック・レンジを縮めないといけない。今回は家庭用ということで、比較的大きめではあるんですが、そういうつくり方をしています。なので、そのまま劇場でかけても物足りなさはあるんです。でもその代わり、今回ウルトラ化、ペガサス化をすることで、周波数帯域を従来の可聴帯域の20kHzよりも伸ばした状態、音としてより高い領域にまで広げています。実際に聴こえる、聴こえないは別として、そうしたものも含めてある状態でつくっています。ここの効果がリアリティ感につながっていきます」
「激しいイノベーションも『AKIRA』なら当然だという感覚がある」(山城)
――『AKIRA』は製作から30年以上経ちますが、制作当時、これほど長く愛される作品となると確信していましたか?
山城「私は確信していました。原作が別格でしたから。やはり大友監督のオリジナリティだと思うんですよね。彼の眼で見た近未来というものに、本当に説得力があった。『AKIRA』の人気は世界にも広がっていきましたが、本物は国際性をもっているということでしょうね。私は音楽の担当ですけど、多少なりとも貢献できたのならうれしく思います。いい仕事のお手伝いができて光栄です」
――『AKIRA』とこれだけ長く仕事してきて、作品への思いは?またユーザーにどのように楽しんでもらいたいですか?
山城「『AKIRA』という作品は半分、自分の体みたいになっているような気がしますね。特に今回はこれまでのパッケージに比べ、相当激しくイノベーション(技術革新)があったんですけど、『AKIRA』だから当然だ、自然だっていう感覚があるんです。『AKIRA』って時代的なコンサバティブ(保守的な見方)は受け入れない。何もかも新しいものをぶつけていかないと形にならない。もちろん人まねは通用しない、世界のどんな流儀も通用しない、『AKIRA』流でないといけないと思うんです。それははっきりしています。あと、聴こえる音と同じくらい、聴こえない音も大事にしてほしいなと思っています」
名倉「4K UHDブルーレイのパッケージには今回の音と、劇場公開時の2ch、DVD版の5.1chと英語版の4種類が収録されます。今回つくった音に関しては、5.1chの環境で聴いていただいたほうが僕らの意図は分かってもらえるのではないかというのが大きいのですが、とにかくどんな環境でも、まずは聴いていただいて、その後のご自身の再生環境の新たなステップとなるようなディスクになるといいなと思っています」
取材・文/飯塚克味【DVD&動画配信でーた編集部】