「チェルノブイリ」の衣装チームが防護服とマスクを寄付…「現実がフィクションを超える悪夢の中に生きている」
世界各国で外出禁止令が発令されてしばらく経ち、現在多くの映画やドラマの制作も中止されている。そんななか、米ケーブルチャンネルのHBO製作のドラマ「チェルノブイリ」の衣装制作スタッフが防護服とマスクを寄付したと表明している。日本ではスターチャンネルで放映された「チェルノブイリ」は、1986年のチェルノブイリ原子力発電所の事故を、ソビエト連邦(当時)における政府の対応と科学者たちの奔走を描いたドラマで、第77回ゴールデン・グローブ賞リミテッド・シリーズTV映画部門作品賞、現場担当官を演じたステラン・スカルスガルドが助演男優賞を受賞。第71回エミー賞では作品賞を含む10部門で受賞している。原発事故の現場で何が起き、政府と科学者はどう対峙したかを鬼気迫る映像で描き、事故の悲惨さと政府の対応によって翻弄される市民の姿は脳裏に焼き付いて離れない。
極限のリアリティを追求した作品に多大な貢献をしていたのが、衣装を手がけたスペインの会社、ペリス・コスチュームだった。「スクリーン・デイリー」誌の取材に対しハビエル・トレド代表は、「私たちは今、現実に起きていることがフィクションの世界を凌駕する、悪夢のなかにいます」と語り、スペインのマドリッドとポルトガルのリスボンの工房に残っていたマスクなどを寄付し、さらに防護マスク、防御服やヘルメットを制作し、最前線で働く医療従事者や警察に寄付することにしたという。現在、世界中で新しい映画やドラマの制作は中断されており、ペリス・コスチューム社も例外ではない。「このような時に、そして将来的にすぐには必要とされないにしても、(外出禁止令下の)監禁状態は、エンターテイメントの必要性と重要性を教えてくれた」と語っている。
同じように、ハリウッドで働く映画コスチューム組合の会長も、組合員のデザイナーたちに呼びかけてマスクや防護服の制作を開始した。映画業界もプロジェクトの休止や解雇で被害を受けているなか、コスチューム・ギルドに属するデザイナーはLAタイムズ紙にこう語っている。「誰もが仕事を失っている今、何かポジティブなことに貢献できる目的をみんなが必要としている」。衣装関係者によるマスク制作プロジェクトは、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の医療局と協働し4000枚近くを縫製し医療現場に届けたそうだ。これらの手作りマスクはN95と呼ばれる防護用マスクの上から被せ防護効果を高めるために使われているという。
もともと、疾患がない状態でマスクをつける文化がないアメリカでは、新型コロナウイルスの感染拡大においてもマスクをつけている人は少なかった。だが先週からは行政機関からもマスクの必要性がアナウンスされ、カリフォルニア州では外出時にマスクもしくは布などで鼻と口を覆うことが推奨されている。映画の制作は止まっているが、各自が持つ特技で危機的状況に貢献しようという動きは今後も広まっていくだろう。
文/平井伊都子