『日輪の遺産』の福士誠治が語る「恥ずかしいことは美しいこと」
浅田次郎の小説を映画化した『日輪の遺産』(8月27日公開)で、堺雅人扮する主人公・真柴少佐の部下・小泉中尉役を演じた福士誠治にインタビュー。『チルソクの夏』(04)以来、8年ぶりの佐々部清監督作ということで、監督から「よろしくな!」と言われてすごく嬉しかったという。福士にとって佐々部組には、特別な思いがあったようだ。
「監督とは8年ぶりで、佐々部さんの現場も好きだったから、子供心に成長したぞ!って言いたい気持ちはありました。だから現場では、気持ちの良い緊張感を感じていました。怒られたらどうしようとかじゃなく、佐々部清という人の頭の中で描いているものを超えたいと思ったんです。成長してるかどうかはわからないけど、一生懸命やって、この映画の一部分になりたいと思いました」。
『日輪の遺産』は、戦争中、マッカーサーの財宝200兆円が秘密裏に隠匿されたという斬新な設定の戦争ドラマだ。3人の軍人と1人の教師、20人の少女たちが、その隠蔽に関わり、ある悲劇が起きる。完成した映画を見た福士は、自身の出演作ながらも途中からずっと涙を流していたという。「悲しいとか切ないとかそういう類のものではなく、一人一人の思いがすごくあふれていたので、泣けました」。
堺雅人と共演した感想を聞くと「面白かったです」と即答。「真柴少佐って受け身で、どんな状況でも耐える男だったので、ある部分で僕が前へ出ないといけないシーンもありましたが、そこで戦わせてもらいました。当時は階級社会だったから、もっと上下関係があった方が良かったかなという部分もありましたが、男として、同志としての関係性を築きたいと思いました」。
劇中では、ひたむきな女学生たちが実にまぶしい。福士は彼女たちについてこう語った。「モンペ姿と、ご飯に行った時の私服姿を見比べると、すごく違うなあと(笑)。でも、役どころの一生懸命さと、この子たちがオーディションに受かってから現場へ来て、一生懸命やろうとしている姿はすごく被りました。それは僕らが小泉たちを演じるのとは違って、素材自体が輝いていた気がします」。
『チルソクの夏』の時もそうだったが、佐々部監督は若手女優からきらめきを引き出すのが非常に上手い。その理由を聞いてみると、福士は「佐々部さんはロマンチストですから」と語る。「男は女の子の前ではこういう態度を取るのが良いだろうっていう、ちょっと小っ恥ずかしいこともさせる監督なんです。それが美しい。僕は、本来、恥ずかしいことってすごく美しいことだと思うんです。佐々部監督が女学生を描くと、そういう純粋さが素直に出ます」。
戦争映画を作る意味について、福士の考え方はこうだ。「人の生き死にって、今の時代も普遍的なものだと思います。日本は平和だと思いますが、世界ではまだまだ戦争をしていますし。戦争映画って男性の主観で描かれているものが多いですが、男がいたら女もいたはずで。その時代の女性たちの生き方って、ちょっと勝手な男の支配力によるものだったとも思います。戦争は誰もが思い出したくない出来事だけど、それを忘れちゃいけない。そういうことを天秤にかけたうえで、歴史を追った戦争映画を作ることは、必要なことなのかなと。映画を見て何かを感じてくれる人は世の中に一杯いると思うので。復興に対する人間の強さも含めて感じられるのは、すごく良いことじゃないかなと思います」。
最後に、今年でデビュー10年目を迎えた彼に、役者としてのやりがいについて聞いてみた。「さらに楽しくなってきたし、やっぱりもの作りは面白いことだと思います。ずっと夏休みだと思ってますから。ただ、台本をもらった瞬間、毎回壁にはぶち当たります。いつも壁に埋まってると思います(笑)。でも、壁がなくなったらダメなんじゃないかな。たぶん。そう思います」。【取材・文/ 山崎伸子】