スクリーンで楽しむ、昭和の落語が大ヒットを記録している理由とは?
近年、映画館が“映画”を見るためだけの場所ではなくなっている。歌舞伎を高画質のカメラで収めたシネマ歌舞伎や、ニューヨークメトロポリタン歌劇場のオペラ公演をその舞台裏風景なども交え楽しめるMETライブビューイングなど、“ODS(Other Digital Stuff)”と呼ばれる映画以外のデジタルコンテンツがデジタル機材の導入によって急激に増加しており、これらを見るために映画館へ足を運んだことのある人も少なくないだろう。そんな映画以外の上映作品として、約1年前からスタートし、人気を集めている注目のシリーズがシネマ落語だ。
シネマ落語は、国立劇場小劇場で毎月開催されているTBS「落語研究会」の過去の貴重な映像を、映画館の大スクリーンで上映するもの。2010年12月に第1弾「壱」、2011年5月に第2弾「弐」と、これまでに二度、期間限定で上映が行われたが、どちらも口コミを中心に話題となり、上映期間の最終週に前週比で約140~150%の伸びを記録。右肩上がりで劇的に観客が詰めかけるという異例の事態が発生した。そして、第3弾『シネマ落語 落語研究会 昭和の名人 参』が2011年11月26日から東京・東劇と、大阪・なんばパークスシネマでの先行上映を開始され、さらに1月21日(土)からは先行上映に引き続き、シリーズとして初めて全国の劇場で上映されることが決定した。
前回の上映時に行なわれたアンケートでは、大変満足と満足の合計が96%という非常に高い数字を得たというが、なぜ今、“落語を映画館で見ること”が人気を集めているのだろうか? 「前二回の客層はシニア層が中心で、久しぶりに落語を見に来たというお客様も多かったようです」と答えてくれたのは、興行主である松竹の演劇開発企画部事業室の担当者。「シニア層は比較的時間に余裕があり、お金も持っているのですが、エンタメに対してお金の使い方がシビアなんです。そんな方々にとって、安心して楽しめる作品が今の世の中には少ないと思うんですよ。だからこそ、外れのない本格落語が映画館で楽しめるという企画が受け入れられたのではないでしょうか。外国映画の名作をリバイバル上映する『午前十時の映画祭』がヒットしたのと同様に、本物志向のお客様が増えているのでしょう」と分析している。
ちなみに第1弾、第2弾は東劇での上映に限定されていたが、今回から全国規模での劇場公開が実現した点も気になるところだ。この規模拡大について、同担当者は「想定内」と語りつつも、「まずは東劇での上映成功が大前提でした。今回、初めての全国公開ですが、今後もこの規模でやるかは今回の成績次第ですね」とのこと。今回の『落語研究会 昭和の名人 参』では、桂吉朝による「不動坊」、五代目三遊亭圓楽による「助六伝」、三代目古今亭志ん朝による「三方一両損」、十代目金原亭馬生による「鰍沢(かじかざわ)」といった作品が上演される。今は亡き、言わずと知れた昭和の名人たちばかりで、いずれも巧みな本格落語を気軽に楽しむことができるので、これまでを上回るヒットと今後の継続にも期待がかかるところだ。
落語のような興行ものは、できれば生の寄席で、それが叶わなくても誰かと面白さを分かち合いながら鑑賞したいもの。以前は家族とテレビで楽しむことができたが、生活が変わり、かつてのお茶の間という場が減少している昨今では、映画館で大人数で見るというスタイルも面白いのかもしれない。それに、若い世代にとっては、落語が興味があっても、ちょっと難しいと感じている人も少なくないはず。また、どこに見に行けば良いのかわからないという人も多いだろう。そんな方はこのシネマ落語をきっかけに、落語の楽しさに触れてみてはいかがだろうか。【トライワークス】