松山洋監督『ドットハック セカイの向こうに』は100年、200年先の子供たちへのメッセージ

インタビュー

松山洋監督『ドットハック セカイの向こうに』は100年、200年先の子供たちへのメッセージ

2002年のプロジェクト始動以来、ゲーム、漫画、アニメなど様々にメディアミックス展開され、現実とゲームの世界が絡み合う奥深い内容で人気の『.hack(ドットハック)』シリーズ。初のオリジナル劇場版3Dアニメとなる「ドットハック セカイの向こうに」が現在公開中だ。「映画化はこの10年の夢!」と語るのは、シリーズ立ち上げからの参加メンバーでもある松山洋監督。映画ならではの魅力、もの作りにかける思いを聞いた。

本作は2024年の福岡県・柳川を舞台に、中学生の少年少女たちが、“THE WORLD(ザ・ワールド)”というゲームを通して友情、淡い初恋、そして現実とゲームの両方で巻き起こる事件に立ち向かい、成長していく青春ストーリー。監督をはじめ、ゲームクリエイターが中心となって作り上げた。10年も続くシリーズを映画化するに当たり、大前提にしたのが映画というメディアの特性だ。「ゲームの場合、たまたま通りかかってジャケ買いする人ってほとんどいないんです。事前に情報を調べて買うもの。でも映画は、何を見るか決めて行かなかったり、前準備のいらない気安さが良いところ。それにゲームだと、お母さんが途中で『お風呂に入りなさい!』って言ってきたりするけど(笑)、映画はお客様が集中して作品と向き合える特別なメディアですから」。

結果、生まれたのが、これまでゲームをしたことがない主人公・有城そら。過去シリーズに触れたことのない人も、彼女と気持ちを共有しながら作品に入っていける。「スタッフには“ド頭15分”とよく言っていたのですが、最初の15分でお客様はこの映画が自分にとって敵か味方かを決める。小さなクエスチョンをすぐに解決していくことが必要で。そのためには、ゲームの中にいきなり入るんじゃなく、主人公がどういう子なのか自己紹介をしなければ絶対に話は進められない。主人公の気持ちが動く過程は、ものすごく気をつけて描きました」。

主人公・有城そらがゲーム世界に飛び込み、初めて目にする“THE WORLD”の描写、ワクワクとした表情は圧巻だ。「男子にも、初めてゲームをやった時の『うおお!』という気持ちを懐かしみ、共感してもらえると思う、すごく大事なシーンで。水彩画のようなイラストタッチで描いたリアルパートと違い、“THE WORLD”に入った瞬間は立体の奥行きの視差も変えています。ザーッと世界が広がるように最新のCGを使って精密に。声を演じた桜庭ななみさんも、『ほとんどゲームをしないけど、私もそらちゃんと同じような気持ちになるんだろうな』って言ってくれて。『あなたはまさにそらちゃんだ!』と嬉しくなりました」。

ゲームクリエイター集団だからこそできた点を聞くと、もの作りに対する興味深い答えが。「ゲームを作る時って、仕様書を作って、プログラム、グラフィックを組み上げて、実際にみんなで騒ぎながらやってみるんです。でも『よっしゃー!思った通りに面白い!』って思うことは一度もない(笑)。クラッシュ&ビルドというんですが、作りながら壊しながら、たどり着いていくわけです。1本のゲームソフトができるのは、奇跡の連続。毎回、そうやってものを作っているので、妥協しないでギリギリまで作り直す、という心の強さには自信がありますね」。

よくスタッフにかける言葉があるという。「締め切りに対して全力で作っているというけれど、もっと力が沸くように、『何歳まで生きる?』って聞くんです。『あと60年とか70年?』と答えると、『お前が死んだ後も、ずっとそのゲームは残る。俺らが作っている作品は来年の子供たちだけに向けて作っているんじゃなくて、100年、200年後の子供たちにも責任を果たさないといけないんだ』と。すると、やっぱりみんなビシっとなりますね」。

キラキラとした瞳で熱く語る姿からも、もの作りにかける思いが伝わる。ライフワークともいえる『ドットハック』シリーズで、共通して伝えたいメッセージは? 「架空のネットワークゲームを舞台に、人間の匿名性、二面性を描くというのが一つ。これってすごく面白いんですよ! “会ったこともないのに友達”というのは現代人、ましてや今も子供にとって100%真実・現実なわけで。つながっていないようで、しっかりつながっている。僕たちは思っている以上につながっているのかもしれないと。つながりがなければ人は生きてはいけないですから」。つながりの中から、助け合いたいという気持ちが生まれ成長していく主人公たち。一歩踏み出そうとする彼らの姿に、きっと勇気をもらえるはずだ。

最後に「ファンにとってこの映画は最新の事件」と、シリーズファンに向けてメッセージをくれた。もちろん映画のみでも楽しめるように作り込まれているが、過去作も合わせて、入り込むほどに新たな発見のできる本シリーズ。是非劇場であらゆる“つながり”を堪能してみては。【取材・文/成田おり枝】

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