『はやぶさ』の渡辺謙、山崎努との共演シーンで感じた率直な思いを激白

インタビュー

『はやぶさ』の渡辺謙、山崎努との共演シーンで感じた率直な思いを激白

小惑星探査機はやぶさの功績をモチーフにした感動作『はやぶさ 遥かなる帰還』(2月10日公開)で、主演俳優と、役柄同様のプロジェクトマネージャーを務めた渡辺謙にインタビュー。世界を股にかけて活躍する渡辺に、俳優としてのスタンスやポリシーについて聞いた。

幾多の困難を乗り越え、小惑星イトカワから無事に岩石サンプルを持ち帰るという世界初の偉業を成し遂げたはやぶさ。彼が演じたのは、このプロジェクトを成功に導いた立役者の一人、山口駿一郎教授役だ。JAXAの予算はNASAの10分の1で、施設自体は所々くたびれている様子が劇中から伺える。NASAの人がはやぶさについて「ボロをまとったマリリン・モンロー」というセリフも心に響く。渡辺は「あれはハリウッドと比べた日本の映画界そのものです。いや、ほめているんですよ」と苦笑い。「その辺は瀧本さん(監督)が、声高にメッセージとして語るのではなく、品良く芯の強さを拾ってくれたのが良かったと思います」。

確かに、幾層もの人間ドラマが積み重なっていき、少しずつ琴線を揺らしていく。渡辺は本作をボレロにたとえる。「交響曲みたいに第一楽章から第三楽章まで壮大なシンフォニーとして見せるのではなく、同じリズムを非常にわかりやすい旋律で紡いでいく映画なんです。単体の楽器から始まり、いろんな楽器が入ってきて、たまに不協和音が鳴ったかと思えば、また単体に戻る。その中でだんだんオーケストラになっていく。同じ曲をずっと聴いてるつもりなんだけど、ものすごく高揚感がある」。

確かに本作では、豪華俳優陣のアンサンブルに見応えがある。ここでは渡辺に、彼の先輩格に当たる山崎努と藤竜也との共演について聞いてみた。「藤さんは今回初共演でしたが、全然初めてって感じがしませんでした。藤さんもいろんな映画や海外の作品にトライされている方で、その勇気についてはとても尊敬していますし。役柄上、丸山先生(藤竜也)と山口先生は盟友で、大学の先輩後輩の関係でもある。だから、安心できる存在なんですよ。山口が記者会見ですごく困ったとしても、ただ丸山先生がそこにいてくださるだけで心の支えになってくれる。お互いの尊敬の念みたいなものがフレームの中に香るんです」。

やはり、俳優どうしにも歴史があるという。若手の頃から何度も共演している山崎努について話す時、渡辺の頬が少し緩む。「山さんとの撮影はたった一日なのに、僕の心の中のカレンダーで赤マークが付いていたんです。ああ明日か、ああ今日か、どうしようって思いながら待ちわびた日でした。(出会って)もう30年になるから、ある意味、山さんは親戚のおじさんみたいなもので。僕の恥ずかしい時も見てくれているし、僕も山さんの無茶苦茶なところもわかったうえでお互いの役を背負ってきたんです」。

そして、撮影当日、彼らのシーンは面白い化学反応を見せた。「あの日の撮影は、瀧本監督に言わせると『ふたりが役柄ではなく、渡辺謙と山崎努にしか見えませんでした』って言われて。『それってまずくない?』って聞いたら、『それが面白いんですよ』って。あのシーンは唯一、山口が弱音を吐けるシーンだったから、幸いしたんだと思います。そういうのって、どうしようもないというか、僕は役でありながら、どこか自分から脱却できないんですよ。歴史も含めてね。だからこそ、ただ単純に外見だけを真似たり、ある種、衣だけをつけた天ぷらを揚げても意味がない。やっぱり素材として、その中にある核、芯みたいなものを、全身全霊の中で受け止めたいと思うんです」。

特に本作では、はやぶさのプロジェクトに魅せられた俳優・渡辺謙が、実際に本プロジェクトを率いた川口淳一郎教授がモデルの山口駿一郎役と共鳴している。その見事なマッチングが、作品の密度をより濃厚にしたのではないか。心に刻まれる名優たちのボレロを、大きなスクリーンでじっくりと堪能したい。【取材・文/山崎伸子 撮影/加藤義一】

ヘアメイク:筒井智美 スタイリスト:馬場順子
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