『アーティスト』の監督、愛妻で主演女優のベレニス・ベジョについてノロケる
第84回アカデミー賞で史上初のフランス映画での作品賞、フランス人俳優初の主演男優賞など最多タイ5部門を受賞した『アーティスト』が、いよいよ4月7日(土)より公開される。オスカー像を携えて来日したミシェル・アザナヴィシウス監督にインタビューし、モノクロサイレント映画へのこだわりや、愛妻で本作の主演女優でもあるベレニス・ベジョについてのノロケ話を聞かせてもらった。
サイレントからトーキーへ時代が移行する1920年代のハリウッドの映画界を舞台に、スターダムに上っていく新人女優と、過去の栄光にすがりつく大スターとの恋を描いた本作。第84回アカデミー賞では作品賞、主演男優賞、監督賞、衣装デザイン賞、作曲賞の5部門で受賞を果たした。
まずはアザナヴィシウス監督に、モノクロサイレント映画を撮るうえでのこだわりについて聞いた。「通常の映画とサイレント映画では、目指すもの自体、あまり変わりないんです。いかにしてちゃんとしたキャラクターを作り、ストーリーを上手に語るかってことだから。それをビジュアルだけで語ると聞くと、難しさに目が行きがちだけど、逆に開放される部分もあるんです。普通は使わないような映像を取り込むこともできるし。もちろん、それをやるために、たくさんの無声映画を見てルールを頭に叩き込みました」。
撮影はカラーで進めていたそうだが、その理由は「美術的な方法として、白黒のニュアンスを見るために、カラーで撮るのが最良の方法だと考えたから」だと言う。「保険としてカラーバージョンを作ったわけではないんです。もちろん、プロデューサーからカラー映画にするという選択肢も残しておいた方が良いんじゃないかという助言もいただき、最初はそのつもりでしたが、カラーと白黒を同時に考えるのはすごく大変な作業なんです。やりながら、これは無理だと思って、途中から放棄しました」。
では今後、カラーバージョンの『アーティスト』が公開される可能性はあるのだろうか?「実は、モノクロ映画が完成してから、カラーバージョンにしようかという考えは捨てていなかったんです。ただそれは、この映画が大コケした場合、お金の回収作としてテレビ局に売ることを念頭に置いた究極の策でした。今はどちらかというと、モノクロのまま3D映画にする方に興味があります」。
ヒロインのペピー・ミラー役を演じたのは、監督の愛妻でもある女優ベレニス・ベジョだ。オスカー受賞を支えた内助の功についても聞いてみた。「今回、近くで見ていたからわかるけど、彼女はすごい努力をして、ペピー・ミラーの役柄を築き上げてくれました」と手放しで絶賛する。「彼女はアメリカのあの時代の女優の動きや、カメラと女優との関係性も習得していました。とても良い女優だと思いますし、今回、自分にぴったりの役に出会えたことで、恐らく他の監督からもオファーが入りやすくなったのではないでしょうか?」。
夫婦ということで、プライベートな時間にも仕事の話をしたりするのだろうか?「彼女はシナリオの一番初期の段階から、私と同じくらいこの映画にどっぷりと浸かっていました。だから普段でも、よくこの映画のことが話題に上っていましたね。でも、現実はまた仕事とは別のところにあるので、監督と女優との関係性を私生活にまで持ち込まないように気をつけてはいました。現場では私が監督として女優の彼女をリードして指図をしますが、私生活ではどちらかというと、彼女に決定権があります(笑)」。
その話を聞いて、ますます好感度がアップしたアザナヴィシウス監督。3D映画が席巻する昨今の映画界で、モノクロサイレントのフランス映画がオスカーを獲得したのはまさに快挙だ。是非とも映画館へ行って、良質で粋な作風に酔いしれたい。【取材・文/山崎伸子】