『サニー 永遠の仲間たち』の監督が語る「アラフォー世代は第二の思春期」
監督デビュー作『過速スキャンダル』(08)の大ヒットでその名を轟かせたカン・ヒョンチョルの監督2作目『サニー 永遠の仲間たち』(5月19日公開)が、また韓国で740万人を動員する大ヒットを記録。ヒョンチョル監督は、どうやって人々の胸に響くヒット作を編み出すのか? 来日した監督にインタビューして、その秘訣を聞いた。
高校生7人の仲良しグループ「サニー」の仲間たちは、ある事件をきっかけにバラバラになってしまった。25年後、メンバーのふたりが偶然再会し、残りの5人を探していく。女性どうしの友情の絆を彩る、ボニー・Mの「サニー」などの1970年代から1980年代までの大ヒットソングも心地良い。ヒョンチョル監督は「女性の映画というよりは、人間について、人生のアイロニーについての話を撮りたいと思ったので、女性を主人公にしたのです」と教えてくれた。
その理由はこうだ。「ヒロインたちは、韓国では“おばさん”と言われている40代です。女性は結婚すると、ご主人の奥さんとなり、子供を産むと母となり、だんだん一人の個人としてのアイデンティティーが失われていってしまいがち。僕はそのアイデンティティーの混乱こそ、心が揺れ動く第二の思春期ではないかと思ったのです」。
なるほど、第二の思春期か。でも、監督は男性なのに、ここまで女心を反映した脚本を書けるなんて大したものだ。「女性が考えているよりも、男性は女性のことをよくわかっていると思いますよ」と笑いながら答える監督。「特にリサーチをしたわけでもなく、自分の姉が40代だし、姉の話も参考にしましたが、ほとんどは想像です。また、僕は普段から、ぼーっといろんなことを想像するのが趣味でして。サラリーマンならすぐクビですが、幸い僕は映画監督なので(笑)」。
現場はもちろん女性だらけ。現在のパートはユ・ホジョンらベテラン勢が演じ、高校生時代の女優はフレッシュな若手をそろえた。監督は「女性に囲まれて、撮影は非常に楽しかったです」と笑顔で語る。「現在を演じてくれた人気女優さんたちは、僕よりもキャリアが長いのに、僕のディレクションを過剰に信じてくれたので、楽に仕事ができました。また、若い女優さんたちは、撮影に入る前に『本当の友達みたいに親しくなってください』ってリクエストをしていたら、本当にそういうふうになってくれました。現場でちょっとうるさいと注意するんですが、1分後にまたしゃべり出す(笑)。まるで映画そのままの関係性を築いてくれました」。
彼女たちの仲の良さは、映画を見れば一目瞭然だ。なかでも、バナナを小道具に卑猥なネタを言い合うガールズトークのシーンには大爆笑。「バナナは、台本を書いている時、小道具として思いつきました。韓国は病院へ見舞いに行く時に、果物をよく持っていくので。でも、現場では皆さん、非常に楽しんでくれました」。
監督2作目も大ヒットした今、本作に多くの人々が魅了された理由を、監督自身はどうとらえているのか?「この映画を撮る前に、『40代の女性を主人公にした映画は興行的に厳しいよ』って言われたんです。それでもこの映画が成功したのは、誰もが持っている青春時代の思い出や友達関係、懐かしさみたいなものに共感してくれたからじゃないでしょうか」。
この映画を見て、自分の胸の奥にしまってあった大切な宝箱から、思い出を引っ張り出すような感覚に陥るのはそのせいだろうか。『サニー 永遠の仲間たち』でますます株を上げそうなカン・ヒョンチョル監督。今後も覚えておきたいフィルムメーカーだ。【取材・文/山崎伸子】