映画なのに映画じゃない!?軟禁中のイランの名匠がスパイ映画さながらに世界へ発信した作品とは

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映画なのに映画じゃない!?軟禁中のイランの名匠がスパイ映画さながらに世界へ発信した作品とは

体制に異を唱える国民に対し、激しい人権弾圧を行うことが問題となっているイラン政府。そんなイラン政府によって映画製作禁止の処分を受けていた映画監督が、それでも自らの新作を強引に海外公開してしまったことが大きな話題を呼んでいる。その新作こそが、9月22日(土)より公開されるドキュメンタリー『これは映画ではない』だ。

本作の監督を務めたのは、イラン映画の巨匠として名高いジャファール・パナヒ。彼は2000年の作品『チャドルと生きる』で第57回ヴェネチア国際映画祭の金獅子賞を受賞、2006年の作品『オフサイド・ガールズ』で第56回ベルリン国際映画祭の銀熊賞を受賞するなど、世界的にきわめて高い評価を得ている監督だ。

ところが、反体制的な活動に加わったことを理由に、2010年3月にイラン警察によって不当逮捕されてしまう。その後、監督自身のハンガーストライキや、数多くの映画人による嘆願書などが功を奏したのか、パナヒ監督は釈放されるが、政府から20年間の映画製作禁止、出国禁止、マスコミとの接触禁止などを言い渡されてしまう。現在、彼は自宅で軟禁状態の生活を送っているそうだが、本作はそんなギリギリの状況のなか、秘密裏に海外へと発信された作品なのだ。逮捕から一年を経た2013月、友人のモジタバ・ミルタマスブ監督の協力の下、監督の自宅で撮影されており、パナヒ監督自身の生活を淡々と映し出していくのだが、穏やかでユーモアにあふれた彼の様子には驚かされてしまう。実現できなかった作品の構想を明かし、映画に対する強い思いを語るパナヒ監督の姿は、とても軟禁状態にあるとは思えないのだ。だが、映画の終盤になり、偶然にもイラン大統領に対する抗議デモが始まると雰囲気は一転。パナヒ監督は撮影が発覚してしまう危険も顧みず、自宅の外へと飛び出していく。この場面は本作のなかでも特に印象的なシーンと言えるだろう。

完成した映像はUSBに収められ、お菓子の箱に隠して、ある知人のルートで密かに国外へ。そして2011年5月の第64回カンヌ国際映画祭でプレミア上映されるなど、映画が公開される過程そのものがスパイ映画のようなドラマを持っている本作。パナヒ監督が国家を敵に回す覚悟で送り出した映像をどうか見届けてほしい。【トライワークス】

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