『I’M FLASH!』の藤原竜也「過去の蓄積をゼロにして臨んだ」

インタビュー

『I’M FLASH!』の藤原竜也「過去の蓄積をゼロにして臨んだ」

藤原竜也がかねてから熱望していた、『ナイン・ソウルズ』(03)の豊田利晃監督と初タッグを組んだ『I'M FLASH!』(9月1日公開)。初の豊田組で主演を張った藤原は、「才能のある人と仕事をすると、ここまで大変な思いをしなければいけないのか」と、ことあるごとに口にしていた。藤原にインタビューし、撮影中の苦労話から、現場で受けた刺激まで、いろんな話を聞いた。

彼が演じるのは、新興宗教団体の若きカリスマ教祖・吉野ルイ役。ルイはある日、謎の美女・流美(水原希子)と出会い、ふたりで夜に車を走らせるが、そこで事故に遭ってしまう。ルイは軽傷で済んだが、流美は植物状態となり、彼は初めて自分の人生と向き合う。まずは、豊田監督が手掛けた脚本を読んだ時の感想から聞いてみた。

「新興宗教の教祖なんて僕には理解できないけど、台本を読んであることを感じました。ルイはよく海に潜りますが、ルイにとって海は自分を守ってくれる存在で、海の中では孤独だけど、そこは唯一、自分を開放できて、気持よく浮遊していられる場所なのかなと。陸に上がれば見たくない現実が待ち受けていて、それをも拒絶し、自分が死に向かって歩いていくだけの男に戻ってしまう。海と砂浜での波打ち際が、生と死の分かれ目のようになっているような。それはまさしく、豊田利晃本人じゃないかと。あそこまで苦労を重ね、どん底を見て、なおかつはい上がろうとしている監督の思いというか、己を投影させたキャラクターなのかなって思いました」。

その感想を、豊田監督に直接話したか?と尋ねると、「伝えてはないです。もちろん、それはわからない部分というか、現場で気付かされた部分もありますし。でも、間違いなく、これは豊田利晃だろうなとは思いました。それ以前に、長年、監督に『一緒にやってください』って言い続けてきたので、それが台本となった喜びの方が大きかったです。もちろん、プレッシャーもありましたが」。

実際、豊田監督の演出はどういうものだったのか?「僕が考えて、考えて、考え抜いて持っていったものを全て捨てさせ、さあどうするかって感じの演出でした。『考えることは大事だけど、そこまで背負ってくる必要はない』とも言われました。また『違う、違う、もうわからない!』と思って、ぱっと言ったセリフがOKだったりもしたし。その瞬間、瞬間を拾ってもらった感じです」。

豊田監督の演出は、否定から入っていったという藤原。「たとえば、別の現場では、自分の主張したことがすんなり通り、自分の感覚だけでもの作りができていく瞬間ってあるんです。でも、豊田さんの現場では絶対的に否定されるわけで。もちろん、監督が今までとは違う僕を引き出したいという思いがそこにあって、自分も変化していかなければいけないとは思いました。監督は瞬間、瞬間で圧をかけてくるし、日々戦いでしたね。新しい自分が生まれるために、今までの自分は駄目なんだと自己否定し、過去の蓄積もゼロに等しいくらいにして臨みました」。

演技派スターとして知られる藤原だけに、戸惑いは大きかったに違いない。「カメラの前で表現することがここまで難しいのかと、改めて感じました。ただ、豊田さんの現場って、最近僕が経験してなかったもの作りの原点というか、とても面白い映画人たちが集まってもの作りをしていた感覚があって、現場は面白かったです」。

なかでも、大きかったのは松田龍平との出会いだ。「自分とは全くタイプの違う俳優ですからね。彼の抱えている絶望感というか、孤独感というか、俳優・松田龍平じゃなく、一個人としての龍平の空気に吸い込まれるような感じでやっていきました。僕の中では、龍平が醸し出す新しい空気と対峙していく感じで、芝居をさせてもらった。面白かったです。他の方々もみんな素晴らしくて、こんなに共演者に恵まれた環境ってないなあと。あの現場は、豊田組ならではじゃないかな」。

最後に、本作を終えた手応えについて聞いた。「監督とやりたいって何年も言い続け、いろんな雑音があった中で本作を一本完成させた結果が全てだと思います。作り上げたからこそ、また、お互いに理解し合えたなとも思います。本作は、監督にとっても、僕にとっても、次への一本へ行くきっかけの作品になった。そのことが大きいです」。実力派の藤原竜也と豊田利晃監督ならではのタッグが生み出す化学反応に大いに期待したい本作。藤原が魅せる新しい一面をじっくりと見てほしい。【取材・文/山崎伸子】

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