チェルノブイリ事故を描いた美人監督を直撃!「こだわったのは立ち入り制限区域での撮影」

インタビュー

チェルノブイリ事故を描いた美人監督を直撃!「こだわったのは立ち入り制限区域での撮影」

1986年のチェルノブイリ原発事故をモチーフにした映画『故郷よ』(2月9日公開)のミハル・ボガニル監督が来日。本作が長編劇映画デビュー作となる新鋭監督ながらも、力強く繊細な人間ドラマを手掛けたボガニル監督にインタビュー。事故から25年が経った立ち入り制限区域で撮影を敢行した本作の撮影秘話は、非常に興味深い内容だった。

チェルノブイリ原発事故により人生を狂わされた人々を、色々な角度から描いた本作。結婚式という幸せの絶頂を迎えた日、いきなり地獄へと突き落とされたヒロインのアーニャも事故の被災者の一人だ。演じたのは『007 慰めの報酬』(08)のボンドガール、オルガ・キュリレンコだが、ウクライナ出身の彼女は、本作の出演を熱望したという。そんな悲劇の花嫁や、引き裂かれた親子、守秘義務に苦悩する原子力発電所の技師の話などは、監督自身が実際に取材した生の声をモチーフに脚本を起こしたものだ。ドキュメンタリーではなくフィクションの映画にした理由は「映画を見た方に、事故を追体験していただくというか、一緒になって見てもらい、何かを感じ取ってもらえる映画にしたかったから」と語る。

ただ、監督が本作で伝えたかったのは、決して政治的なメッセージではない。「事故が起きたプリピャチの人々を取材し、心が動かされたので、是非映画にしたいと思ったわ。当事者の声ってあまり表に出ていないし、今や風化されつつある状況なので、彼らの町の思い出や曲を映像として残したいと思ったの。被災者たちのその後の人生の変化、感情を作品の中心に置きたかった。あくまで人間ドラマとして描きたかったから、ラブストーリーを重要な要素として取り上げたのよ」。

最大の難関は、立ち入り制限区域での撮影許可を取ることだった。何とダミーの脚本まで作って挑んだのだ。「それは、製作会社の方が出してきたアイデアよ。許可を取るのに手こずっていたら、そう提案されたわ。当局が嫌がるような部分を削って出して、無事、許可が下りてから、本物のシーンの撮影をしたの。様々な規制をクリアするためにはそうするしかなかったから」。

立ち入り制限区域での撮影は、色々と制約も多かったそうだ。「撮影できる場所も、撮影する時間も限られていたから大変だった。機材を運ぶ時間も考えてスケジューリングをしなくてはいけなかったし。冬場の撮影は本当に寒かったし、放射能に汚染されていないような場所でも、色々と気をつけないといけないことが多かったわ」。

でも、実際にそこで撮影を敢行して本当に良かったと語る。「撮影の準備段階では、本当にできるのだろうか、無理かもしれないと不安になった。それくらい許可を得るのがすごく難しかったの。実際、何度も足を運んだしね。でも、そこだけはどうしてもこだわりたくて、立ち入り制限区域で撮影しないのであれば、この作品は撮らないと決めていたの。最後まで信念を突き通したから可能になったのだと思うわ」。

本作は、東日本大震災直後、2011年開催の第24回東京国際映画祭natural TIFF部門でも上映された。その時に被災地から来ていた観客からも感想を聞いたそうだ。「福島、もしくはその近辺の地域から来られた方に『まるで自分たちのことのようだ』と言われたの。事故からまだ半年くらいしか経っていない時に上映したので、皆さんの心を揺さぶってしまったのかもしれない。でも、そんな被災者の方を見て、私自身もすごく心を打たれたわ」。

チェルノブイリ事故の悲劇が、生々しく描かれた本作。事故が起きた1986年と、その10年後が描かれる構成も秀逸だ。見終わった後、『故郷よ』というタイトルが改めてずっしりと重くのしかかってくる。今だからこそ心して見ておきたい一作だ。【取材・文/山崎伸子】

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