高良健吾&吉高由里子、5年ぶりの共演で確かめ合った絆「醜い部分も見せてきた人」
高良健吾と吉高由里子が『蛇にピアス』(08)以来、5年ぶりに共演を果たした『横道世之介』が2月23日(土)より公開される。同じ青い時期を描いたものなれど、全く違うタイプの作品で再び顔を合わせたふたり。お互いが“特別な存在”と認め合う、ふたりの絆とは。高良と吉高を直撃し、それぞれの青い時期、そして互いへの思いを語ってもらった。
原作は第23回柴田錬三郎賞を受賞した吉田修一の同名小説だ。長崎から上京した不器用で人の良い青年、横道世之介と、彼に関わった人々との青春時代が鮮やかに描かれる。横道世之介を演じるのが高良だ。そして、吉高が世之介のガールフレンド・祥子役を伸びやかに演じている。ふたりのやりとりが何とも楽しく、思わず笑顔がこぼれるほどだが、5年ぶりの再会の印象を聞くと、「現場では、昔を振り返ってばかりいたね」と顔を見合わせた。
高良は「5年前に会っていたからこそ、できたことがたくさんあったんです。今回は決め事やルールを一切決めないで、芝居に臨みました。吉高さんもルールがないから、予定調和なことが一個もなかったんですよね。間や動き方、セリフに対しての反応など、吉高さんでなければできないことばかりでした」と話す。吉高も「共演という形での再会がとても嬉しくて」と語り出し、「高良さんはまだ色々なことを知らない時に出会った人で、醜い部分もたくさん見せてきた人。今ではそんなに正直になれないなっていう姿も見ている人だから、信頼感があるんです」と、思いを吐露した。
心の穴を埋めるために、刺青やピアスで身体改造をする人々の姿を描き、激しい描写も話題となった『蛇にピアス』。撮影当時は、高良が20歳で、吉高が19歳。ちょうど世之介たちと同じ年代の頃に出会っている。その頃を振り返り、高良はこう語った。「再会して思ったのは、お互いに前より前向きに現場に向かえているし、自由度が増した気がして。20歳の頃、僕は現場は大好きだけど、芝居は嫌いでした。自分は間違ったところに来てしまったんじゃないかと思っていた。あまり思い出したくない時期ではあります。今が前向きで、昔が後ろ向きだったのかはよくわからないけれど、今はとにかく360度の方向で向き合っていると思っています」。
360度を見渡せるようになった、その変化にきっかけはあったのだろうか。「自分にできないことがあるのは、すごく楽しいなって思うようになったんです。そして、『軽蔑』(11)という映画に観客を呼ぶことができなかった。その経験が大きいですね。それまでは、『わかる人にだけわかれば良い』って思っていたところがあったんですが、映画を見てもらってもいないのに、そんなことを思うのがダサいと思うようになりました。見てもらう努力と行動はちゃんとしようって、そういう気持ちが芽生えてから、自分のなかで変わっていったと思います。悔しかったですから」。
一方の吉高も、5年間の変化を「ネガティブな部分が、ポジティブになりました」と話す。「女優も一生やる仕事だとは思っていなかったんです。芝居に関して熱く語れるほどノウハウもないし、仕事もなくて。アルバイトもしていたし、よそ見歩きばかりしてたかなと思います。ちょうど『蛇にピアス』撮影の直前に事故にあって、ICUに入ったんです。その時、寝ていたら、どこかからうなり声が聞こえてきて。目を開けたら、自分がうなっていたんですよね。痛くて、早く良くなりたくて。気持ちはやさぐれているのに、体は未来に向かって進もうと前向きなんだって思ったんです。それに、仕事で誰かに待っていてもらうなんて経験もしたことがなかったのに、『蛇にピアス』の撮影も『治るまで待っています』と言ってもらえて。大勢の人たちが関わっている場所に自分がいたんだということも知らなかったし、その人たちのためにも頑張ろうって思ったんです」。
『横道世之介』では、温かく、優しく、人間味あふれるカップルをスクリーンに登場させたふたり。吉高演じる祥子は、可愛らしいだけでなく、面白いキャラクターに仕上がり、さすがの爆発力を見せつけている。高良は「吉高さんの爆発力は、いつも感じていました。吉高さんが役に寄って行っているのに、役も吉高さんに寄って来ている。そのバランスがすごい。他の作品を見ても、『吉高さんじゃなきゃできないでしょ』って思うことばかりで。吉高さんは、吉高さんにしかできないことをやっている。それは魅力だし、武器だし、他の人にはできないことです」と、盟友を絶賛する。
吉高は「嬉しいですね」と微笑み、こう続けた。「高良さんにしかできない世之介でした。世之介の不安定さとか、アンバランスな気遣いとかも、高良さんの出している絶妙な雰囲気があってこそなのかなって。そして、しっかりとそこに立って、祥子を見ていてくれた気がします。高良さんだから、私が爆発したとしても、ちゃんと受け止めてくれる。そういう信頼感があったからこそできました。譲り合って作ったシーンもないですね。お互いにやりたいことをやって、それは安定した芝居かはわからないですが、そのガタガタしている、ズレている感じも、世之介と祥子っぽいですよね(笑)」。
辛い経験や人々との出会いを通して、素直に、ポジティブに変化を遂げた高良健吾と吉高由里子。本作は、認め合うふたりでしか成立しえない、宝物のような瞬間にあふれている。青い時期を振り返り、もっと前を向いて歩きたくなる、そんな珠玉の一本だ。【取材・文/成田おり枝】