『シュガーマン』マリク・ベンジェルール監督、歌手シクスト・ロドリゲスを語る
1970年代に全米デビュー、南アフリカで支持されたミュージシャン、シクスト・ロドリゲスの活動をまとめたドキュメンタリー『シュガーマン 奇跡に愛された男』(3月16日公開)。本作のメガホンを握ったマリク・ベンジェルール監督のインタビューが届いた。
マリク・ベンジェルール監督はスウェーデンの国営テレビスタジオでの仕事を辞めた後、題材探しのために、自費で2000ドルで6ヶ月有効の世界周遊チケットを購入し16ヶ国を旅した経験を持つ。その旅の中で、本作の主役ともいえるロドリゲスの物語に、訪れた南アフリカで偶然出会った。ベンジェルール監督は南アフリカで出会った物語について、「仕事のプレッシャーはなく、楽しみながら題材探しをしつつ旅をしていた。見つけた題材は6つあったが、そのうちのひとつがロドリゲスの話だった。ケープタウンでスティーブン・“シュガー”・セガーマンに出会い、ロドリゲスの話を聞いた。僕はすごくショックを受けたよ。人生でこんなに素晴らしい物語は聞いたことがなかった」とその衝撃を明かし、「これが5年前のことで、それからはほぼ毎日と言っていいほど、この映画にかかりっきりだった。一番難しかったのは、実はロドリゲスなんだ。カメラが回るとまるで別人のようになる。実際に会うととても親しく話してくれるのだが、カメラの前ではシャイで、警戒心がなかなか解けないこともあった。ものの5分で、『これでいいだろう。もうやめよう』と言われ、毎年デトロイトへ出向いて撮り続けて、やっと20分撮れたんだ」と振り返る。
作品を創り上げるために足しげくロドリゲスの住むデトロイトへ何度も通ってようやく撮影できたのが20分。彼を気遣ってカメラを別室に移すなどしなければならなかったりと気を遣いながらの撮影にも関わらずマリク・ベンジェルール監督は、「ロドリゲスは本当に人をインスパイアする人だ。お金はないが、自分自身に正直に生きており、魂が自由な人だ。内面がとても豊かで美しい。それは娘達にも受け継がれており、よく彼女達を幼稚園へ連れて行ったりしたそうだが、そこが彼女達の博物館や図書館になったりした。娘達はみな教養があり、心が豊かだった。豊かになるには必ずしもお金は必要ないということだね。だから、彼に惚れたし、今でも大好きだし、とても印象に残る人だ」とロドリゲス本人から多くを学んだ様子。
そんなロドリゲスの人生を作品にしたいと思っているものの、出資協力をしてもらえる人がなかなか見つからなく、撮影はすべて自己負担で補った。資金が尽き、残りの撮影をiPhoneアプリで乗りきった作品が、第85回アカデミー最優秀長編ドキュメンタリー賞を受賞したのだ。受賞後、ベンジェルール監督は「オスカーにノミネーションされるだけでもすごいことだった。プレゼンターのベン・アフレックが、『Searching for Sugar Man』と言った瞬間は人生で一番感激した瞬間だったよ。本当に嬉しくてしかたなかった。この作品に関わったすべての人に感謝している」と感慨深く語り、「この作品は自分が有名だったことをまったく知らなかった男の話。デトロイトに住む男はその人生を建築作業員として過ごし、質素な家で暮らしていた。ところがこの男、南アフリカではローリング・ストーンズよりも有名だった。そして40年という月日が過ぎてはじめてその事実を知らされる。ある日突然、自分が王様だったということに気付かされる男の話に胸打たれるはずだ」と日本での公開に嬉しそうな表情をのぞかせた。是非とも劇場に足を運んで、彼の楽曲が世代を超えて支持される理由、また、自殺したとの都市伝説が残る彼の消息などを確かめてほしい。【Movie Walker】