ロバート・レッドフォード、米版ジャンバル・ジャンに扮した監督作を語る

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ロバート・レッドフォード、米版ジャンバル・ジャンに扮した監督作を語る

初監督作『普通の人々』(80)で第53回アカデミー監督賞を獲得したロバート・レッドフォードが、久々に監督・主演を務めた最新作『The Company You Keep』(日本公開未定)で、共演者のスタンリー・トゥッチ、ブリット・マーリング、そして鮮烈な女優デビューを果たした12歳の天才オペラ歌手ジャッキー・エヴァンコと共に記者会見に臨んだ。

ロバートが主催するサンダンス映画祭やトロント映画祭にも出展された同作は、長引くベトナム戦争に反対を唱える機運が高まるなか、地下組織ウェザー・グラウンドが暗躍した1970年代前半を描いた、ニール・ゴードン著作のフィクションの映画化だ。

元過激派グループの一人だったジム(ロバート)は、30年以上も前に起こしたある事件から逃れるために身元を隠し、11歳の娘の世話をしながら弁護士として生活していたが、仲間の逮捕をきっかけに、名声を得るために執拗なまでにジムに付きまとう一人の若手ジャーナリストのベン(シャイア・ラブーフ)の手によって逃亡の身となるという、手に汗握る政治スリラーに仕上がっている。

「この小説に関心を持ったのは今から5、6年前くらいでした。私がジムを演じたいと思ったのは、ジムが『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンに似ていると感じたからです。ジャンはパンを盗んだ罪で服役し、その後は身元を偽って子供の世話をしながら世の中に貢献してきました。ジムもまた若かりし頃の過ちの代償を払いながら新しい人生を歩み続けてきたという点で共通点を感じました。またそのジャンと、その行く手を阻止しようとするジャベール警部、そしてジムと、その正体を暴こうとするベンとの関係も似ていると思いました」。

ロバートはこれまでにも出演作や監督作でジャーナリズムや政治のあり方に疑問を投げかけてきたが、現在進行形の関心事でもあるそれらの要素が全て詰まった作品であったことも、メガホンを取る大きなきっかけになったようだ。

「私は1960年代、既にニューヨークの舞台に立っていて、家族もいたので政治活動には参加しませんでしたが、反戦思想には共感するものがありました。アメリカは、歴史にあまりに無知であるがゆえに、過去の悲惨な失敗から学ぶことなく前に進むことばかり考えて、今も同じ失敗を繰り返しているように思います。あの時代はある確固たる目的のために動いていましたが、今の若者は“ウォール街を選挙せよ”といったデモを行ったりしても、先に明確に見えるものがないうえに、インターネットなどによる情報が錯乱していて、真実を探ることも難しくなっています。若者にとっても今は大変な時代だと思いますが、実際にどうなんでしょうか」と、真剣な眼差しでジムの活動家時代の娘役を演じたブリットに質問を投げかける場面もあった。

「事実を描きたいのであればドキュメンタリーでも良かったのですが、これはあくまでもフィクションです。当時の事件に関わった人物の息子には会いましたが、それ以上のリサーチはしませんでした。いろんな人に会って真実を知れば知るほど真実に忠実に描く責任が生まれてきます。それにとらわれて好きなように製作ができなくなることは避けたかったからです」と語るロバートは、政治やジャーナリズムに確固たる意思を持っており、複雑に絡み合う様々な役どころについても明確なビジョンを持って撮影に望んだようだ。

そんなロバートを慕ってジュリー・クリスティ、ニック・ノルティ、クリス・クーパー、スーザン・サランドン、サム・エリオットなど超ベテランと、シャイア、ブリット、テレンス・ハワード、アナ・ケンドリックら今を担う若手俳優という実に豪華キャストが勢ぞろいしており、新旧のコラボも大きな見どころの一つになっている。

「予算が少ないなかで短時間で撮影を終わらせるには、あまり準備を必要としない飲み込みの速さと、親切で協力的なキャストがそろわなければ成立しないんです。ブリットとは、僕自身も現代を生きる若者の感じ方にとても興味があるので、色々なディスカッションをしました。スタンリーは普段はシャイですが、一度び演技をすると入り込んでエネルギーを上手にコントロールできるすごい役者です。ジュリーには彼女がこの役をやらなくてはいけない理由を何度も説得して了解してもらいました」。

「子役のオーディションはいつも僕にとって悩みの種なんです。木曜日から撮影が始まるというのに、今回も最後まで娘役が決まっていなくてイライラしていた時に、テレビでオーケストラを従えて堂々と舞台をマネージメントしているジャッキーを見て、すぐに母親に連絡を取ったんです。こんなに素晴らしキャストが集まってくれてとても幸運だと思っています」と絶賛されたジャッキーは、ロバートの目に留まった感想を聞かれると、「緊張したけど、撮影はとても楽しかったです。パパがアクション映画が好きで、(ロバートが)カウボーイ役をやっていた人っていう話は聞いていたけど、『ありがとう』以外に何て言って良いかわからないわ」と恥ずかしそうに答え、会場の笑いを誘った。

役者としては、『明日に向かって撃て!』(69)、『追憶』(73)、『華麗なるギャツビー』(74)など様々な役どころに挑戦しながらも、美男子であることに葛藤し続けてきたロバートも今では御年76歳。約45分間にわたる記者会見で、常に記者たちの質問に熱心に耳を傾け、てきぱきと答える様子は年齢を感じさせなかったが、容姿の顕著な衰えは多くのメディアが指摘している点でもある。

「昔の写真を見ていると本当に気が滅入りますよ。でも、誰だって年を取るのだから折り合いをつけていかないと」と語る姿は、形は違えども過去と折り合いをつけながら生きるジムと重なるものがあった。これからも偉大な映画人の一人として、大いに活躍を期待したいものである。【取材・文/NY在住JUNKO】

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