女優になっていなかったら英語の先生だった?ジュリアン・ムーアが新作を語る

インタビュー

女優になっていなかったら英語の先生だった?ジュリアン・ムーアが新作を語る

『ブギー・ナイツ』(97)、『ことの終わり』(99)、『エデンより彼方に』(02)、そして『めぐりあう時間たち』(02)でアカデミー主演女優賞及び助演女優賞に4度もノミネートされている実力派女優ジュリアン・ムーアが、トライベッカ映画祭に出品された新作『The English Teacher』(全米5月17日公開)について語った。

常に色々な役に挑戦しているジュリアンが同作で演じるのは、40歳独身、男っ気のない、文学大好きな片田舎の高校英語教師リンダ。人との関係を閉ざして文学の世界に浸りながら、大好きな英語を教える平穏な生活を送っていたリンダの人生は、脚本家を夢見てニューヨークに渡ったはずの教え子ジェイソン(マイケル・アンガラノ)と遭遇することで一変する、というキュートなコメディドラマだ。

演技派女優のジュリアンは、今回もすっぴんを辞さず、ダサいファッションで泣いたり、笑ったりとリンダを熱演しているが、実際に目の前に現れたジュリアンは、52歳とは思えない若さとキュートさ、美しさ、そして気品を称えている。

「リンダは自分に似ていて、とても役に入りやすかったわ。物語の中に生きていて、ある意味では現実を避けて生きてきたの。それが、ある意味、人生が思うようにいかなくて甘えていたジェイソンと出会うことで、初めて現実の世界に遭遇して、お互いが成長していくっていうプロセスが面白いと思ったの。私も小さい時から文学が好きで、どちらかというと人に会うより、家で本を読んでいる方が好きだった。リーディングコンテストのために夏休みを費やすような文学少女で、運動はさっぱりだった。読んだり演技をしている時だけは自分らしくいられたから、リンダは好きだし、親近感があったし、彼女が理解できたからとても演じやすかったわ」と微笑みながら、ゆっくりと語るジュリアンは、実にチャーミングだ。

「高校低学年時の英語の先生はロビー・テイラーって言うんだけど、ドラマコーチでもあった彼女が『あなたは女優になれるわよ』って言ってくれたの。演技に興味はあったけど、実際に人前で演技することとか俳優の存在は私にとってはリアルなものではなかったから、彼女の後押しがなかったら女優になっていなかったかもしれないわ。両親も『私、女優になるの』って言ったら驚いていたくらいだった。もし女優になっていなかったら、英語の先生になっていたんじゃないかって思っている」そうだ。

リンダはそれだけのはまり役というわけだが、実際のジュリアンのキャリアは、演技の勉強をしながらボストン大学を卒業し、ウェイトレスをしながらオーディションを受けるという日々で、女優としては遅咲きだった。それでもオフ・ブロードウェイなどの舞台に立ち、32歳で映画デビューを果たしたジュリアンのキャリアはとても順風満帆に見えるが、そんなジュリアンにもオーディションで大きな失敗があったという。

「私の人生で最悪のオーディションは、部屋に入った途端に終わったのよ。どうしても出演したい映画だったから、すごく緊張しちゃってて、部屋に入った途端に、挨拶(How are you doing?)のつもりが、口が滑って『調子はどうですか?』(How doing you?)って、わけのわからないことを言っちゃったの。あちらも『調子いいですよ』(I am doing good.)としか言いようがないでしょ。その瞬間に『あー、もう終わったわ』って絶望的な気持ちになったのを今でも覚えているわ」と失敗談を語ってくれた。

子役からショービジネスで活躍している俳優たちが軒並みドラッグなどで失墜しているなかで、ジュリアンが遅咲きであることはキャリアの成功の一つになっている部分があるのではないだろうか?

「マイケルは6歳からこの世界にいるし、ジョゼフ・ゴードン=レヴィットも早くからこの世界にいたけれど、良いキャリアを築いているわ。一方の私は大学を出てからだけど、きちんと教育を受けて私を指導してくれる両親がいたことは、とても助けになっていると思っているの。だから人それぞれよね。親の役割をしてくれる人がいるかいないかが、大きな違いだと思うわ」。

「セレブリティの世界ってよくわからないけれど、『何で人は有名になりたいのか?』って夫と話しをしていて、人は誰でも見られたい願望、自分が誰なのか、そして誰かに認識されたいっていう願望があるんじゃないかと思ったの。私たちは写真で見られることで周囲の人たちとつながっているけれど、実はそれはつながっていないことと同じ。そんななかで、心のバランスを取るのは確かに難しいことだと思うから、どうやっているのか自分でもよくわからないわね。」と謙虚に語るジュリアンは、9歳年下の映画監督の夫とふたりの子供たち、そして女優としてのバランスの良さを、自分でも気付かないうちにしっかりと保っている余裕が感じられた。

20、30歳が旬のハリウッドにおいて、今回も40歳の役を演じているジュリアンは、この年代で活躍する稀有な存在だ。今後も『Non-Stop』(共演にリーアム・ニーソン)、『The Seventh son』(日本10月17日公開予定)、『Imagine』、そしてデヴィッド・クローネンバーグ監督作でロバート・パティンソンと共演する『Maps to the Stars』など、出演作が目白押し。なかでもクロエ・グレース・モレッツ主演のホラー『キャリー』(全米10月18日、日本11月8日公開)はファンのみならず業界でも大いに話題になっており、まだまだジュリアンの快進撃は続きそうだ。【取材・文 NY在住/JUNKO】

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