黒木華と刈谷友衣子が石井岳龍ワールドに心酔「これでまだ、生きられる」
石井岳龍監督が、“石井聰亙(そうご)”だった時代から7年もの歳月をかけて温め続けてきたという渾身作『シャニダールの花』(7月20日公開)。不思議なパワーに満ちた世界で、美しくもミステリアスな花を咲かせてみせるのが、女優・黒木華と刈谷友衣子だ。注目度急上昇中の2人を訪ねると、「石井ワールドにたくさんの刺激を受けた」と声をそろえた。
物語の中心となるのは、選ばれた女性の胸に咲く“シャニダールの花”。画期的な新薬開発のための成分が含まれるその花は、研究所では“奇跡の花”とも呼ばれている。研究所で女性たちをケアするセラピスト・響子役を演じるのが黒木だ。そして刈谷は、花を宿しながらも、周囲の大人たちに違和感を抱えて生きるハルカ役に扮し、悦びや哀しみなど、2人の繊細な感情表現が、見る者を惹きつける。
人の想像力に挑戦するような、実に独創的なストーリーだが、2人ともが脚本に「違和感を感じなかった」と話す。黒木は「すごい脚本だなと思いました。人から花が生えてくるというのは、ファンタジーだし不思議なことなのに、違和感なく読めたんです。実際に起こっていることとして受け止められて、それがおもしろかったです」、刈谷も「脚本を読んでいて、とても気持ちよかったんです。元からその世界を知っていたように、すんなりと入り込むことができました」とうなずいた。
包容力と強い意志を持ち合わせた響子。純粋で、優しい少女・ハルカ。響子は不安を抱えたハルカの心に寄り添い、信頼関係を築いていく。謎めいた世界のなかで、2人の関係はまるで姉妹のようで、温かな空気を生み出している。刈谷は「私は、華ちゃんが大好きで」と笑顔を見せ、「こうやって手を差し伸べられたら、どうやって返すんだろうって考えて。響子とハルカの関係性を、2人で話しながら創作していった」と振り返る。
黒木は「響子はハルカをケアする側だけれど、ハルカが響子を受け入れることで、逆に、ハルカに救われている感じもした」と2人の関係を分析。「友衣子ちゃんは、起きる物事や、かけられる言葉の一つ一つを、すべて自分の中に吸収していく。ほかの役者さんたちの反応を受け入れて、それを素直に返すことができるんです」とふわりと微笑んだ。お互いへの信頼感が、なんとも心地よく伝わってきた。
人間と花の関係性を通して、世界の新たな見方を提示する本作。黒木は「私の名前は“華”と書くので(笑)。そういう繋がりは、偶然だけれどうれしかったです。花は身近にもあるものだけれど、人に気持ちを伝えるために、渡したりもできるもの。普段、意識はしていないけれど、ずっと昔から、人の心の近いところにあるものなんですね」とコメント。「本作からたくさんの刺激を受けた」そうだ。
さらに、「『逆噴射家族』(84)や『爆裂都市 BURST CITY』(82)など初期の作品を含め、石井監督のすべての作品とどことなく繋がっている部分があると思う。併せて見たら、すごくおもしろいんじゃないかな!」と目を輝かせる。「綾野(剛)さんも話していたけれど、いまこそ、こういう映画が見られるべきなんじゃないかと。物があふれてきて、何が好きで、何が嫌いなのか、自分の気持ちもうやむやになりがちだったりする。石井監督のように、確固たるものがある作品に触れることで、少しずつ自分の生活が変わっていくこともあるはず。私自身、ちょっとずつ何かが変わっていく気がしたんです」。
刈谷も「私も石井監督の『水の中の八月』(95)とか、すごい好きで。石井監督の作品は、映像と音楽が拮抗していて。せわしなく生活していくなかで忘れてしまっているような、もう一つの世界に触れることができる。難しい環境になっても、そういうものをずっと作り続けているんですよね」と監督に敬意を表す。そして「生きづらい人たちが、生きているんだと感じることで、私もまだ生きられると思える。『抗うことさえも嫌だ』と思った時に石井監督の作品を見たら、『全然、大丈夫』って思えるんじゃないかな」と、石井ワールドは16歳の心にも多くのものを残した様子だ。
あらゆるものを吸収し、すくすくと成長。いままさに鮮やかに咲こうとする若手女優の、黒木華と刈谷友衣子。美しくも堂々と咲いてみせるその姿は、頼もしいばかりだ。ぜひ、『シャニダールの花』で彼女たちの魅力を堪能してほしい。【取材・文/成田おり枝】