寺島しのぶが語る女優魂「私にしかできないと思った役は、絶対にやる」
映画に圧倒的なパワーを与える女優といって、寺島しのぶを思い浮かべる人も多いはず。このたび、寺島が第26回東京国際映画祭(10月25日まで開催中)のコンペティション国際審査員に就任。彼女にとっては、『ヴァイブレータ』(03)で優秀主演女優賞を受賞した、縁の深い映画祭だ。当時を振り返ってもらうと、寺島は「私が映画界で初めていただいた賞なんです」と笑顔を見せた。
『ヴァイブレータ』(03)での受賞の際に印象に残っているのが、当時、審査員を務めたコン・リーからの言葉だという。「コン・リーさんが私の名前を呼んでくれて。『賞というのは、もらった時点で過去のものになるから』とおっしゃったんです。その時は、『おめでとう』と言ってくれればいいのに。怖い人だなと思った(笑)。でも後々その意味がよくわかってきて。そこにしがみついていてはいけない事がわかったんです」とうなずく。
2003年には、荒戸源次郎監督作『赤目四十八瀧心中未遂』も公開。彼女にとって、本格的に映画界に飛び込んだ「ターニングポイントとなった一年」だ。「『赤目四十八瀧心中未遂』や『ヴァイブレータ』でたくさん賞をいただいて、こういう人間がいるんだって、ちょっとはわかってもらえるようになった年ですね。そんなことはそれまでの人生でなかったことなので、一つ一つがすごく嬉しかったんです。若かったし、調子に乗りたかった時期なのかな(笑)。『次にはどんな役が来るんだろう』と思ったりしました」。
しかしその後にやってきたのは、ぽっかりとした“空虚感”だったと心中を明かす。「周りの目も変わってくるし、私自身、『賞を獲ったんだから』と思っていたら、『どういう作品に出会ったら良いのだろう』と心がぽっかりとしてしまった」と告白。「『また一から始めよう』と思えた時から、少しずつ変わることができた。賞にしがみつくのではなく、先へどんどん進んでいくことが大事ですから。今は常に、一から始めようという気持ちでいます」と、輝かしい受賞にも固執しない姿勢が、なんとも格好良い。
ターニングポイントから、10年。「とにかく良い作品に出会いたい」と真っ直ぐな瞳で話す。そのパワーの源が気になるところだが、映画への深い憧れが、彼女を前に進ませているようだ。「母(富司純子)の影響ですね。私は、小さい頃からずっと、『映画は特別なもの』と母から聞かされていました。だから私にとっても、映画=特別なものというのが刷り込まれている。私もいつかあのスクリーンで、エンドロールで一番最初に名前が上がるようになりたいと、ずっと思っていたんです」。
憧れの場所であるスクリーンで、寺島はいつも一筋縄ではいかないような役に挑んでいる。役を選ぶ上で決め手となるものは何だろう?「台本を読んでみて、他の女優さんが浮かんできてしまう時ってあるんですよ。そういう時はやらない(笑)。逆に、これは私にしかできないと思ったものは、どんなに困難があっても絶対にやる」と楽しそうな笑顔。「私も40才になって、これからは出来る役柄もどんどん難しくなってくる。一つ、一つ、魂をかけられる作品を創っていきたいですね。大人の女性を撮ってくれる監督と出会いたいです。今の日本には男性同士の友情や、若い男女の恋愛を描くものはあっても、なかなか大人の女性をきちんと撮ってくれる映画は少ないですから」。
若松孝二監督作『キャタピラー』(10)では、ベルリン国際映画祭で最優秀女優賞を受賞。女の業を見事に演じきった。「若松監督との出会いは、本当に大きなもの。荒戸(源次郎)監督、廣木(隆一)監督、若松監督と、私は、女優をちゃんと撮ろうとする監督に出会えて、本当に幸せだと思います」と力強く話す。
古い常識に戦いを挑む映画や、抵抗する映画がそろったという今年の東京国際映画祭コンペティション部門。困難を恐れず、挑み続ける女優・寺島しのぶとの相性は抜群だ。最後に、国内外からやってくる、どんな映画との出会いを楽しみにしているか聞いてみた。「私はやはり人間が好きだから、人間ドラマを見たいです。喜怒哀楽のきちんとある映画こそ、国境を超える映画だと思っています。悲しいなかにも、フッと笑う瞬間があったり、表裏一体なものが見えてくる映画は、すごいと思います。それこそ人間だと思うんです」。【取材・文/成田おり枝】