超多作の男、三池祟史監督。原作ものを映画化する時のポイントとは?
三池祟史監督、脚本・宮藤官九郎、主演・生田斗真がタッグを組んだ『土竜の唄 潜入捜査官 REIJI』が、いよいよ2月15日より公開。三池監督と言えば、「オファーの来た順番に、仕事に取り組む」ことを公言。ジャンルを問わない上に、超多作の監督として知られている。今回は、高橋のぼる原作のコミックに挑戦した三池監督。そのパワーの源に迫った。
落ちこぼれ警察官の玲二(生田斗真)が、“モグラ”として犯罪組織に潜入。ターゲットを挙げるために奮闘する姿を、爆笑あり、アクションありで描く本作。原作は、累計発行部数450万部を突破する人気コミックだ。原作ものを映画化する時には、ある共通した思いがあるそうだ。「まず、自分が原作そのものの一番のファンになること。表面上だけじゃなくてね。原作者の方も含めて、その作品をリスペクトしていくんです。それだけの愛情を『土竜の唄』に注いでいるとなれば、『ここはいる、ここはいらない』など、色々なジャッジができるようになります」。
続けて「正直に言うと」と胸のうちを吐露。「その場合、僕にとっての観客は原作者さん、ひとりになるわけで。小説であれ、漫画であれ、原作者が『映画化して良かったな』と思わなければ、映画がヒットしても僕としてはあまり意味がないんです。自分が生み出したものが映画になって、その映画を原作者が楽しんでくれたとしたら、それこそ、エンタテインメントの醍醐味じゃないですか」。
「原作者が第一」というが、それではどのように“三池節”を作品に反映させていくのだろうか。「まず、どの作品でもこめられたメッセージって、一緒だと思っていて。高校生を描いても、暴力団員を描いても、みんな、つかめない何かをつかもうとしているのは同じ」と、根っこの部分をとらえることがポイントの様子だ。さらに、「人のアイディアで映画を作る時に、“俺らしさ”ってすごく邪魔なものだと思うんです」と告白。「『自分らしさを表現しよう』と思っている時点で、おかしい気がする。とにかく、無我夢中でやっているうちに、意識していないなかで、本当の自分らしさって出てくるものだから。自分らしさとは、来たものに、とにかく真摯に無我夢中に向かった結果だと思います」。
「オファーの来た順番」というモットーの理由も、「とにかく、映画を作ることが好きだから。それに尽きます」と三池監督の思いは明確だ。「だからこそ、そう思っているなかで出会えた原作には、何らかの縁があるんだと思うんですよ。まったく違うところで生まれた人が描いたものを映画化することになって、そのタイミングに良い役者たちが集まってくれた。これって、すごい縁ですよね」。
多作の上、本作も相当な強行スケジュールで撮影を敢行。一体、そのパワーはどこから生まれてくるのだろう。すると、「とはいえ、一年に何十本も作れませんからね。暇ですよ」と豪快に笑う。「例えば今回だと、『生田くん良いよね』とか、『堤(真一)さん、良いよね』と思うことが、良いプレッシャーになってくるんです。バカな玲二という役を、こんなに生き生きと演じる喜びって何なんだろうとかね。この世界、どうしてあんなにエネルギーがあるんだろう!というような、変なモチベーションを持った人ばかり(笑)。だからこそ、出来上がった映画を見た時に、それぞれが後悔しないようなものを作りたいと思うんです。これは、役者だけでなく、スタッフにも言えることで。全員がそう思うことは不可能かもしれないけれど、気持ち的にはいつもそう思っています」。
映画と、そこに集まる人々に大きな愛情を注ぎ込む三池監督。その男気には、惚れ惚れするばかり。『土竜の唄』の主人公・玲二の決めセリフは、「バッチ来い!」だが、三池監督こそ、一番の“バッチ来いの男”かもしれない。【取材・文/成田おり枝】