トミー・リー・ジョーンズ監督の新作『THE HOMESMAN』が第67回カンヌ国際映画祭のコンペに登場
カンヌ国際映画祭は社会的な事件に対しても沈黙を守る、もしくは守らせるということはしない。学校から連れ去られた少女たちを戻せと訴える紙を持ってレッドカーペットに現れたサルマ・ハエックを止めるものはいない。そのシーンを見て思い出したのが『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』(05)が脚本賞と男優賞をダブル受賞したときのサルマのコメントだった。「一人の死をないがしろにしない作品だから私たちは選んだのである」
その『メルキアデス~』で監督として認められたトミー・リー・ジョーンズ監督の新作が第67回カンヌ国際映画祭のコンペに選ばれた。『THE HOMESMAN』である。
19世紀のアメリカ西部。過酷な開拓地で精神を病んだ三人の女性を東部に送り返すため、拠点になる教会まで彼女たちを送り届ける役目を申し出た一人の女性。独身で農場を切り盛りするしっかり者の彼女だが、さすがに一人で旅するのは心もとなく、たまたま縛り首になりかけていた男を救いそのかわりに旅の手伝いをさせることにする。4人の女と1人の流れ者、絶望の果てに我を失った女たちを救うことは出来るのだろうか…というストーリー。記者会見には監督・主演のトミー・リー・ジョーンズとヒラリー・スワンクらが登壇、活発な質疑応答が行われた。
監督・脚本・出演とこなすトミー・リーだが「監督はなんでも出来る。俳優としては監督の言いたいことをよく聞くようにしている」と成功の秘訣を明かす。ヒラリーは「馬に乗ることなど準備することはたくさんあった。大変だったのは、4人の女優みんなだと思うけれど、風呂に入れず、髪も洗えなかったこと」という。ヒラリーの演ずるヒロインは31歳。馬に牛、ロバを飼い畑を開墾し家もある。教養もあり家事もきっちりとこなす。足りないのは夫だけ、なのだが…。
「私が演じたいのはリアルな女性像であって、美しいかタフかというのは関係ありません。綺麗ですって言ってもらうのは嬉しいけれど(笑)」とヒラリーが言うように、今回のヒロインも一人でなんでも決めて実行するという女性。精神を病んで東へと戻される3人には家庭がある。しかし、幸せとはかけ離れた暮らしに限界を超えてしまったのだ。この3人を演じるのは、国籍の違う3人の女優である。トミー・リー曰く「当時の西部は各国の人々が移民してきたるつぼみたいなものだったんだ。今のLAやNYみたいに。だからキャスティングも難しくはなかった。いろんな国の俳優が集まっているからね」
俳優だけではない。プロデューサーも国際色豊か。リュック・ベッソンのヨーロッパ・コープが製作を務めている。ベッソンならばどんなジャンルの作品を作ってもおかしくはない、とは思うが「ヨーロッパ人には西部劇の風景への憧れがあるんですよ。トミー・リーは『メルキアデス~』でも我々が夢見る西部を見せてくれたし、彼が作る西部劇ならば見てみたいと思って製作を引き受けました」とベッソン。監督と二人して「ドリーム・カム・トゥルー」とにやり。日本での公開は未定だが、ぜひ公開してほしい作品の一本だ。【シネマアナリスト/まつかわゆま】