『ノア 約束の舟』の監督が、映画を撮っていて、いちばん達成感を感じる瞬間とは?

インタビュー

『ノア 約束の舟』の監督が、映画を撮っていて、いちばん達成感を感じる瞬間とは?

低予算の監督デビュー作『π』(97)から『ブラック・スワン』(10)まで、独創的な映像と洞察力の深い人間ドラマを紡いできた映像作家ダーレン・アロノフスキー監督。ラッセル・クロウを主演に迎えた最新監督作『ノア 約束の舟』(6月13日公開)は、数々の国で歴代オープニング記録を塗り替え、自身のキャリア史上、最大のヒット作となった。来日したダーレン・アロノフスキー監督にインタビューし、撮影について聞いた。

本作で描かれるのは、人類史上最古にして最大の謎「ノアの箱舟」伝説。聖書の物語に肉付けをし、壮大な人間ドラマに仕上げた。アロノフスキー監督は、その道のりについてこう話す。「聖書のなかには短い記述しかないが、いろんなテーマが含まれている。第二のチャンスや、希望、善と悪などだ。そういうテーマをいかに膨らませて、2時間の作品にするかってことが重要だった。だから、テーマに真実を与えることに尽力したよ」。

ラッセル・クロウが演じたノア役には、神の精神状態を投影させたそうだ。「聖書では、ノアのキャラクターについて何も描かれてない。ただ、彼は神の命に従って行動するだけの人物だ。でも、神は非常に憤りを感じていて、最終的に恩赦というところまでいく。その状況をノアに与えたんだよ」。

ノアの箱舟に、地上のつがいの動物たちが一斉に乗り込むという圧巻のシーンはCGで作られた。その理由について監督はこう説明する。「1つはそれが動物にやさしい方法であること。2つ目は、動物を実際に持ち込むとなると、動物園みたいになってしまう。実際に、世界中の多種多様な動物をすべて映し出すのはCGじゃなきゃ不可能だった。海と洪水もCG。でも、雨は本物だ。本作では、いろんな奇跡が起こるし、ファンタジーなシーンもあるから、そういうものも含めて、できるだけリアルに見せようとしたんだ」。

ノアはやがて、あることが理由で、神の命を遂行することに苦悩する。アロノフスキー監督作では、常にとことん追い込まれた人間の葛藤が描かれてきた。監督によると「狂気と、何かを変えようとがむしゃらになることの間には、細い境界線がある。僕はそこに興味があるんだ」とのこと。なるほど、確かにその紙一重な部分に、見る者は心を揺さぶられるのかもしれない。

また、本作では、ジェニファー・コネリー演じるナーマや、エマ・ワトソン演じるイラなど、女性の強さが際立つ。他の作品においても、そういう傾向があるが、そのことについて監督は「私の母も姉も、ものすごく強い女性なんだ。だから、女性を尊敬しないとボコボコにされるんだ」と苦笑い。「本当に強い女性が、正しいことを一生懸命レクチャーするというのは、『π』でも描いたよ。また、『ファウンテン 永遠につづく愛』(06)や『レスラー』(08)でも、そういう女性が登場する。確かに、僕の作品では、何度も何度も繰り返し強い女性が出てくるね」。

最後に、映画作りにおいて、絶対に譲れないものについて聞いてみた。「僕は、常に自分のスタイルを持っているけど、いつも共同作業者と共に、どこまでが限界なのかってことは一緒に決めていくよ。だから、どうしてもこれだけはというこだわりはないよ。それは予算や作品の規模なども、関係がないんだ」。

では、映画を撮っていて、いちばん達成感があるのは、どんな瞬間なのか。「それは、俳優から最高の演技を引き出した時だ。その体験自体が財産だと思っている。今回もいちばん最高の瞬間は、ジェニファー・コネリー(ナーマ)が最後の方で、ラッセル・クロウ(ノア)に懇願するというシーンだった。あのシーンを撮れただけで光栄だよ。いちばん満足感を感じたシーンだ」。

本作は、アロノフスキー監督作のなかで、ケタ外れのスケールの超大作となったが、常に監督が大事にしているものは、これまでどおり変わらない。『ノア 約束の舟』はスペクタクル巨編に違いないが、息を呑むような緊迫感あふれる人間ドラマが、最大の見どころとなっている。【取材・文/山崎伸子】

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