ルネサンスの巨匠ミケランジェロとダーレン・アロノフスキー監督に意外な共通点が!
旧約聖書「創世記」に記された「ノアの箱舟」伝説を、鬼才ダーレン・アロノフスキー監督が、かつてないスペクタクルを交えて描く『ノア 約束の舟』(公開中)。世界39か国でオープニングNo.1を記録し、日本でも好調なスタートを切った本作だが、意外にもルネサンス期の巨匠ミケランジェロが描いた作品と共通点があるという。
ミケランジェロといえば西洋美術史上、最も偉大な芸術家の1人。彫刻、絵画、建築など、多彩な分野で活躍し、後世に多大な影響を与えた西洋美術の巨人だ。「ダビデ像」や「ピエタ」など、美術に詳しくなくとも彼の作品には触れたことがあるはず。このミケランジェロについて、美術史家で多摩美術大学教授の松浦弘明氏は、「ノアの箱舟」伝説をモチーフに描いた「大洪水」が『ノア 約束の舟』と同一線上にあると解説している。
松浦氏によると「ローマのサン・ピエトロ聖堂に隣接するシスティーナ礼拝堂の天井にミケランジェロによって描かれた『大洪水』」に描かれたのは「ノアと箱舟は最後方に追いやられ、前景には水面が徐々に上昇していく中で、大勢の人々が少しでも高い場所を目指して必死に生き抜こうとする」姿だという。このことについて松浦氏は「このような状況は聖書にいっさい記述されていないが、ミケランジェロはこうしたことが洪水の初期段階ではあちらこちらで繰り広げられていたはずだと考え、自身のイマジネーションを膨らませて命を懸けた人間的ドラマを描出した」と、ミケランジェロが「大洪水」に独自の解釈が盛り込んだのではないかと指摘している。
また松浦氏は「大洪水」を次のように分析している。「その表現は画面に迫真性を与えているが、同時にそこからは画家の明確なメッセージも読み取れる。それは、果たして溺死していく人々はすべて排除すべき『悪』なのか、家族で助け合って生きていこうとする人々を神は見殺しにするのか、神の判断は絶対的に正しいのだろうか、といった画家の疑念である」。こうした人間ドラマは今回の『ノア 約束の舟』でも強調して描かれている。今作について松浦氏は「アロノフスキー監督の『ノア 約束の舟』は、こうしたルネサンス的な表現の延長線上にある。彼は『創世記』にわずか数ページにしか記されていないノアの物語を逐語的に描写するのではなく、聖書の記述はあくまできっかけとして利用し、そこから現代にも通じる本質的な問題を提示している」と、「大洪水」との共通点を見出しているようだ。
ルネサンス期から現代まで時を超えても描かれる「ノアの箱舟」伝説と、そこに織り込まれる「人間ドラマ」。『ノア 約束の舟』を鑑賞する際には、ぜひこのテーマを意識して、注意深く物語を追ってほしい。【Movie Walker】