イヴ・サンローランを演じたフランスの美しい新星。男性同士の恋愛に感じたものとは?
伝説の天才デザイナー、イヴ・サンローランの輝けるキャリアと知られざる人生に迫る映画『イヴ・サンローラン』(9月6日公開)。華やかなファッション業界を舞台に、天才がゆえの孤独、生涯のパートナーとの複雑な愛がドラマチックに明かされていく。サンローラン役に挑んだフランスの新星、ピエール・ニネを直撃し、役作りの秘訣や恋愛観を聞いた。
うっとりするほどの美しさとピュアな透明感を持ったピエール。フランスでは“ボー・ギャルソン=きれいな男”として人気が沸騰し、最も期待される若手俳優となった。弱冠25歳で伝説的人物を演じることとなったが、役作りには「準備には5か月半の時間をかけたんだ」という。
声や歩き方といった独自の研究の他に、3人のコーチについてみっちりとサンロラーン役を作り上げた。「まずはデッサンのコーチ。この映画ではスタントを使わないで、僕自身がデッサンを描くことを求められていたんだ。そして、フィジカルコーチ。彼の生涯を演じる上で、経年によって肉体がどのように変化するかを学んだ。3人目は、ファッション業界のコーチ。ファション業界はどのように機能しているのかだけではなく、洋服はどのように作られるのか、布はどのように触るべきなのかということを教わったよ」。
というのも、ジャリル・レスペール監督は即興でシーンを変更することもあるため、どんな状況でもサンローランとして振る舞えるようにしたかったのだとか。そうして魂を吹きんだことにより、完璧なまでのサンローランが完成。サンローランの生涯のパートナー、ピエール・ベルジュ氏が彼を見て、思わず動揺してしまったほどだという。
その再現度は、ベルジュ氏が撮影を見に来た日のエピソードにも明らかだ。「ベルジュ氏が撮影を見に来たのは、クライマックスのコレクションのシーンだった。実際にサンローランがショーをやったホテルの一室で、撮影も行ったんだ。衣装も財団所有のアーカイブから持って来たもので、音楽もそのまま。それをカメラの後ろで見ていたベルジュ氏は、感動の涙を流していたんだ。そんな彼を見て、僕らもみんな感動した」。
ベルジュ氏は、最もサンローランを間近で見て来た人物と言えるが、「ベルジュ氏から聞いた話は印象的なものばかりだった」とピエール。「バックステージで2人がどんな怒鳴り合いをしたかも聞いたよ(笑)。家でもホテルでも、激しい口論をしたって。でもサンローランはそれ以上に、とてもユーモアのある人だと言っていた。それは、親しい人の間でしか見せなかったようなんだけれどね」。
アルコールやドラッグに依存していく姿だけでなく、男性同士の恋人であるベルジュ氏との愛も赤裸々に描き出される。激しいキスや愛の言葉を交わす一方、怒鳴り合い、ぶつかり合う彼らの愛は、ピエールの目にはどのように映ったのだろうか?「2人はお互いに補完し合う関係だったんだと思う。あれほどお互いに補える関係は珍しいんじゃないかな。サンローランはアーティスティックな才能を持っていて、ベルジュ氏はそういった意味では凡人。でもサンローランにとっては、現実的で地に足のついたベルジュ氏のような人がそばにいることが必要だったんだ」。
さらにピエールは、「そしてベルジュ氏は、“人に必要とされること”が必要な人。そんな2人が補い合って、サンローラン帝国を築き上げたというのは、素晴らしい偉業だと思うんだ」と2人の関係が巨大ブランドを作り上げたことに感激。ある意味、理想のパートナーだと言えるが、ではピエール自身にとって、理想の恋人とはどんなものだろう。
「僕にとっても、このカップルのように補完的であるということはすごく重要なことだと思う。それは、自分に欠けているものがあることを認めることであり、パートナーにはそれを補えるものがあると認めること。そうやって、自分や相手を認め合い、喜んで補完する関係は、理想だと思うよ」。さらに理想の女性像について聞いてみると、「不可欠な要素は、エレガンスとユーモアだね」とはにかむ。
熱心に映画への思いを語ってくれた彼だが、サンローラン役に対しての綿密な役作りにおいては「自分とサンロラーンの共通点を探してみた」とも。「その結果、まったく僕らは似ていなかったんだ。でも唯一、似ているところがあるとすれば、それは若くして情熱を傾けられるものを見つけたこと。僕にとってそれは俳優の道なんだ。サンローランの創作への情熱を感じて、役者としてもとても刺激になったよ」との言葉が印象的だ。彼がこんなにもキラキラと輝いているのは、外見的な美しさだけでなく、心の純粋さ。そしてその中に確かなパッションがたぎっているからなのだろう。【取材・文/成田おり枝】