オスカー有力候補の役者たちが『Foxcatcher』で挑んだ役作りの秘訣を語る!
第52回ニューヨーク映画祭で話題作『Foxcatcher』が上映され、ベネット・ミラー監督、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、チャニング・テイタム、スティーヴ・カレル、マーク・ラファロ、シエナ・ミラー、アンソニー・マイケル・ホールが記者会見に応じ、役作りについて語った。
ジョン・E・デュポンを演じたスティーヴ・カレルは、「役作りにあたっては、たくさんの参考資料があったのでリサーチはたくさんした。彼が読んでいた本や、彼自身が撮らせたほぼノーカット版のドキュメンタリーなどだ。そこには、彼が公には見せたくないであろう生々しいシーンがたくさんあってとても興味深かった。それを見て彼がどんな人間なのかということをより深く認識することができたので、そのアイデンティティを表現することを常に意識していた。彼はとても気難しい人物だったので、デュポン家の人たちが積極的に(製作に)協力しなかったのは理解的できる」という。
同作は、ジョン・E・デュポンとシュルツ兄弟の弟であるマークを中心に、兄デイブとの3角関係を軸に描かれるが、スティーヴ・カレルの圧巻の演技に負けていないのが、マーク・シュルツを演じているチャニング・テイタムだ。
実際にマーク・シュルツに会って話を聞いたというチャニング・テイタムは、「マーク・シュルツ、ベネット監督、ラファロと僕でディナーに行って、その後でニューヨークの街を歩いたんだ。ラファロと僕は、マーク・シュルツとベネット監督のちょっと後ろを歩いていたんだけど、ラファロが『彼の歩き方を見てごらん』って言ったんだ。それは彼がどうやってこの世界を生きてきたのかを明確に表していた。それから僕は彼の動きすべてを勉強し始めたんだ。それが僕の演技のすべてだと思う。彼は荒っぽくもナイーブで感情的で、ある意味ではわかりやすい人物だった」とうつむき加減で神妙に語り、まるで作品の中のマーク・シュルツが乗り移っているかのようであった。実際にマーク・シュルツはアシスタントプロデューサーとして同作に参加し、カメオ出演もしていることから、チャニングのプレッシャーと責任は大きかったようだ。
またラファロ演じるデイブ・シュルツの妻ナンシーを演じたシエナ・ミラーも、実際にナンシーに会ったことが役作りの基本だという。「撮影が始まるちょっと前にナンシーに会ったわ。撮影初日に現場にいたので、とても緊張したけど、彼女はとても寛大でオープンで、すごく熱心にすべてのキャラクターについて情報を提供してくれたの。信じられないほど快活で強くて魅力的な女性だったわ」と撮影当時を振り返った。
マーク・シュルツの兄であり父親役、そしてナンシーとの間に授かった2児の父親役のデイブ・シュルツを演じ、絶大な存在感と演技力をアピールしているマーク・ラファロ。デイブ・シュルツは亡くなっているため直接役作りはマーク・シュルツやナンシー、文献や映像などに頼るしかなかったが、「2時間以上のドラマだから少しは大げさにしないといけないが、シュルツ兄弟の関係は事実に忠実に描かれていると思う。マークが2歳、デイブが5歳の時に両親が離婚し、実質、デイブがマークの父親代わりだった。母親が恋人と住んでいたから、家には居場所がなくて2人は庭で寝ていたというのは有名な話なんだ。2人は転々と住む場所を変えて、本当に幼いころから常にふたりで、彼ら以外の誰かは存在しなかったようなものだ」と語り、渾身の演技の基盤となった複雑な生い立ちと2人の関係について熱弁した。
同作は、史実に基づいているが、ジョン・E・デュポンが精神を患っていたという説や、ジョン・E・デュポンとヴァネッサ・レッドグレイヴ扮する母親との複雑な関係、ジョン・E・デュポンとマーク・シュルツの関係、デイブとの関係など、結末に至る過程で多くの疑問を投げかける。それは、「真実は誰にもわからない。多面的な要素があり、見た人がいろいろ考え、語ってくれることが望ましい」というベネット監督の意図でもあるようだ。
ベネット監督といえば、『カポーティ』(05)では故フィリップ・シーモア・ホフマンにアカデミー賞主演男優賞をもたらし、『マネーボール』(11)では惜しくも受賞は逃したものの、ブラッド・ピットを同主演男優賞に、ジョナ・ヒルを同助演男優賞にノミネートさせた敏腕監督だ。今年も作品賞はもちろんのこと、スティーヴ・カレルが同主演男優賞の最有力候補に、マーク・ラファロも同助演男優賞にノミネートを確実視されており、オスカーの行方が楽しみだ。【取材・文/NY在住JUNKO】