オスカー最多ノミネーションなるか!?イニャリトゥ監督作『バードマン』は中年の危機がモチーフ
『21グラム』(03)、『バベル』(06)などシリアスな人間ドラマを描くことに定評のあるアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督作で、第71回ヴェネチア国際映画祭のオープニングを飾った『バードマン』(15年春公開)が、第52回ニューヨーク映画祭のクロージング作品として上映され、イニャリトゥ監督、マイケル・キートン、エドワード・ノートン、ザック・ガリフィアナキス、アンドレア・ライズブロー、エイミー・ライアン、エマ・ストーン、ナオミ・ワッツが記者会見で同作について語った。
同作は、かつてスーパーヒーロー映画『バードマン』で主役を演じ、人気を博した俳優のリガンが、その後のキャリアや家族との関係に悩み、ブロードウェイの舞台で復活を図ろうとするというストーリーだ。リガンを演じるマイケルは、かつて『バットマン』(89)、『バットマン リターンズ』(92)でバットマンを演じており、一見マイケルの話のようにも思えるが、アイディアは、イニャリトゥ監督の自身の中年の危機からきているという。
「人間なら誰でもあると思うが、僕自身も昨年50歳になって色々な葛藤があった。これまで生きてきた人生を振り返って、大事なもの、足りないもの、失ったものなど、人生にとって大事なことを考え直す時期でもあった。リガンがなかなか過去の栄光を捨てきれないのは、まさに人間誰でもが持つエゴだと思う。私自身も時々、『これはすごい!ファンタスティックだ!お前は天才だ』と言い聞かせたかと思ったら、20分後には死んだクラゲみたいに感じて、『なんておまえはバカなんだ!』って具合になるんだ。エゴとはまさに暴君だ」とイニャリトゥ監督。
「でも、素晴らしいキャストがいなかったらこの作品は成り立たなかった。役者はエゴイストだという人もいるが、政治家や僕の歯医者の方がもっとエゴイストだ(笑)。彼らがエゴイストならこの映画はできなかった。マイケルたちのジョークとか彼らの人間性が、いろんな形でこの作品に反映されている」とキャストを褒め称えた。
マイケルを起用したのは、バットマンをやっていたことも関係なくはないが、重視したのは、彼がドラマとコメディの両方のジャンルに長けている点だったとか。「話をもらった時に、心の準備ができていたかというとそうではなかった。そういう意味では勇気も必要だった。この役どころで難しかったのは、短い間に色んな感情の変化があってそれを表現することだったけど、それは大変でもあり楽しくもあった」と語るマイケルは、ヴェネチア国際映画祭で上映されてから演技が絶賛されており、オスカーの呼び声も高いことについて、「すごくいい気分だ!バードマンのコスチュームは持ち帰らなかったが、後から後悔したので、取り戻す方法を考えている」とユーモアたっぷりに答え、会場の笑いを誘った。
また、ジャーナリストからオスカーに必須とも言われるマイケルの付け鼻に話が及び、「マイケルもナオミもつけていましたが、何か意味がありますか?」と問われると、「あれは、ハビエル・バルデムの鼻ね」とまたもやジョークが飛び出したが、ナオミも素早く反応。「私のは付け鼻じゃなくて本物よ。ショックだわ!私のコンプレックスなのに」と笑いながらもショックを隠せない様子だったが、キャストや監督も顔を見合わせて大笑いするなど、現場の結束力を感じさせた。【取材・文/NY在住JUNKO】