イニャリトゥ監督作『バードマン』の個性派俳優たちが語った緊迫した撮影現場とは?

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イニャリトゥ監督作『バードマン』の個性派俳優たちが語った緊迫した撮影現場とは?

アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督作『バードマン』(15年春公開)が、第52回ニューヨーク映画祭のクロージング作品として上映され、イニャリトゥ監督、マイケル・キートン、エドワード・ノートン、ザック・ガリフィアナキス、アンドレア・ライズブロー、エイミー・ライアン、エマ・ストーン、ナオミ・ワッツが登壇した。

同作の中心となる劇中劇も見どころの1つだが、「撮影は、ブロードウェイの舞台裏など撮影用カメラが入る余地がない狭いスペースで行われたものが多く、1つのカメラで長回しで行われた。カメラワークは数か月前からリハーサルを重ねて緻密に計算されたもので、すべての決断は撮影前に行っていた。動きもセリフもジョークもすべて脚本通りにやらなければならず、即興は許されなかったが、それは自由がないようでいてとても自由なんだ。ドラマティックなテンションを表現するという意味で、1番役者の力を出せるからだ。エディティングルームでどんなに編集を重ねても、元が良いものにはかなわないからね」と役者を褒め称える監督。

ブロードウェイデビューを飾った女優を演じているナオミが、「撮影スタイルのおかげで、舞台を象徴するような緊張感とかプレッシャーといった感覚が生まれたの。机一つ動かすスピードや役者が互いに与え合う影響とか、本当に舞台で演技しているようだった。すごい昔、演技の勉強をしている時にたくさんの舞台に立った経験があるけれど、撮影中にその頃の悪夢を思い出したわ。セリフを忘れたり、衣装を間違えたり、衣装を着けていなかったり。でも現場は、きちっと統制がとれていて楽しかったし、すごくいい経験だった。それが映画の完成度にそのまま反映されていると思う」とまじめに答えると、マイケルが、「僕もあるある。衣装を忘れたりね。ナオミが裸の悪夢を見たり。それは悪夢じゃないね(笑)」とすかさずジョークをかました。

同作でマイケル扮するリガンの娘を演じているエマは、来月からミュージカル「キャバレー」の主役サリー・ボウルズでブロードウェイデビューするが、「この映画でお芝居の舞台裏を経験したから、すごく怖くなったわ。でも、ナオミが言ったように、テーブルの動かし方、お互いを信頼して動く関係など舞台はユニットなのに対して、映画は個だから、映画ではできない経験ができたのはとても良かったし、勉強になった。それでもやっぱり舞台は怖いし、ナーバスになっているわ(笑)」と複雑な心中を明かしたが、その甲斐あってかエマは同作で開眼したと言われており、オスカーの有力候補に名を連ねている。

またマイケル扮するリガンと舞台で対峙するマイクを演じているエドワードも、オスカー最有力候補の一人だ。そのエキセントリックともいえる役どころは、「僕は昔から、アルコール中毒でアナーキズムなニューヨークのある舞台俳優の大ファンだが、今回の役作りには関係ない。すべて脚本通りに、監督の指示通りにやったんだ。マイクの身に着けているジャケットやスカーフも彼のものだし、僕の言っていることは、すべて監督から聞いたか、彼が僕に言ってほしいと望んでいることだ。マイクはメキシコなまりの英語になっていることからもわかるように、まさに監督そのものなんだ」とイニャリトゥ監督を真似てメキシコなまりの英語で答えるなど、楽しくも厳しかった撮影当時の様子がうかがえた。

「いわゆるアメコミ映画ではないのに、ニューヨークで開催されているコミコンに出席した」というエドワードが言う通り、『バードマン』というタイトルはアメコミ映画を彷彿させ、実際にコスチュームを着たバードマンが登場するが、中核にあるのはいわゆる人間ドラマだ。それでいて、いたるところにちりばめられたジョークやテイストは、これまでシリアスなドラマを描いてきたイニャリトゥ監督のテイストとは異なっている。

「スパイシーなものを食べすぎたから、少し休もうっていう感じかな。でもアプローチは違うけど、キャラクターはこれまでの作品と同じなんだ。人生とは?とかサバイバーを描いているという点でね。アイディアは僕の経験でもあるが、50歳で亡くなったレイモンド・カーヴァーの81年の短編小説「愛について語るときに我々の語ること」を読むと、そこには人間の限界や人間の根源みたいなものが描かれている。痛ましいほどに、みんな愛を欲しているし愛を探しているが、では一体愛の意味とは何なのか、といったことを考えさせられた。それは紛れもなくこの作品のDNAになっている」とイニャリトゥ監督。コスチュームに託された意味も深いようで、作品賞はもちろんのこと、監督賞、主演男優賞(マイケル)、助演男優賞(エドワード)、そして助演女優賞(エマ)など、今からオスカーの行方が楽しみだ。【取材・文/NY在住JUNKO】

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