妻夫木聡、亀梨和也の笑顔に泣いた!その理由は?
『舟を編む』(13)で第37回日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した石井裕也監督作『バンクーバーの朝日』(12月20日公開)で、主演を務めた妻夫木聡。『ぼくたちの家族』(14)に続いて2度目の石井組では、亀梨和也、勝地涼、上地雄輔、池松壮亮らと共に、戦前のカナダ・バンクーバーに実在した野球チームの選手役を演じた。妻夫木にインタビューし、野球を通して語られる、男たちの真実のドラマの舞台裏について話を聞いた。
出演を即決したのは、石井裕也監督作だったから、ときっぱり言った妻夫木。「『ぼくたちの家族』でも感じたことですが、石井さんは役者やスタッフ、みんなと同じ目線で悩み、同じだけ苦しみを味わいながら現場にいてくれるんです。だから『OK』の重みも全然違います。石井さんにとっては、いままでやっていなかったようなでかい作品だし、僕もこんなにでかい作品は滅多にやらせてもらえないし、その上、フジテレビさんの55周年という冠もついていたし。きっといろんなことがあったとは思うけど、石井さんとだったらいっしょに最後までやり切れると思っていました」。
戦前に日系移民として生まれ、差別や貧困の中にあっても肩を寄せ合い、ひたむきに野球を続けたチーム「バンクーバー朝日」の選手たち。主要キャストは、学生時代に野球経験があるメンバーで固められたが、主人公・レジー笠原役の妻夫木だけが、唯一未経験者だった。彼は、撮影に入る前から徹底的にトレーニングを積んだという。
「野球でいちばん苦労しました。ショートというポジションで、いちばん上手くなければいけなかったから。バントの練習はすんなり入っていけたのですが、守備を長年やっているふうに見せるためには、とにかく練習するしかなくて。何回かケガをして、野球ができない時もあったのですが、その時初めて『野球がやりたいな』と思いました。仕事のためにやっていたけど、気づいたら、ああ、僕は心底野球を好きになったんだなと感じました」
亀梨和也とは本作で初共演を果たした。現場での亀梨について「やっぱり悩んでいたとは思います」と語る。「彼が演じたロイ役って、一筋縄ではいかない役だったから。ただ黙っていればいいわけじゃないし、クールに見せすぎると格好良い芝居になってしまう。ただ、本人は『自分は映画をやらせてもらう機会がそんなに多くないから、こうやってやれるのはうれしいんです』と言っていて。だから、すごく楽しんでやっていたとは思います。でも、芝居に関しては、ドラマとはちょっと勝手が違うところもあったと思うから、石井さんとはいっぱい話していました」。
亀梨が演じたロイ永西は、病床に伏す母の看病をしながら、漁業に従事しているエースピッチャーだ。日々、自分が置かれている環境に葛藤し、時には感情を露わにするシーンもある。「今回、亀(梨)は、これまで見たことがない新しい顔を見せていたと思います。僕自身は、亀が演じたなかでいちばん良い芝居だと思うし、本当にすごく魅力的でした。この映画は、彼のおかげで最終的に救われたとも思っています」。
妻夫木は、亀梨の笑顔が最高だったと称える。「素晴らしい笑顔で、何にも勝てないなと思いました。僕はあのシーンを見て、泣いちゃいました。人が泣いているのを見て共感して泣くことは多いけど、笑顔で泣けるってことはすごく良いなあと。石井さんもすごく粘っていました。『ここはとびきりの笑顔をやってくれ』と、何度も段取りをやって、本番も何回もやっていました。その結果、渾身の『OK!』が出ていました」。
また、妻夫木は亀梨とロイの共通点についても上げる。「彼は彼でずっと背負ってきたものがあると思うんです。KAT-TUNの亀梨和也としてもそうだし。すごく良いヤツなんですが、ちょっと孤独感みたいなものを持っている人というか、本音をあまりしゃべってくれないんじゃないかと思うこともあるし。そういう一匹狼感が、ロイと共通していて、その結果、すごく良かったです。石井さんはそういうところもちゃんと見てくれていたんだなと思いました」。
石井監督の下、「バンクーバー朝日」の選手としてスクリーンのなかで力強く生きた妻夫木聡たち。この冬、見ておきたい渾身の1作である。【取材・文/山崎伸子】