メリル・ストリープ、演技への情熱を保つ秘訣は?
第87回アカデミー賞で、史上最多19回目のノミネートを果たしたメリル・ストリープ。いまや演技派女優として向かうところ敵なしとなり、超えていくものは自分自身といったところか。
彼女が演じたのは、ディズニー映画『イントゥ・ザ・ウッズ』(3月14日公開)の魔女役。今回も強烈なキャラクターに息吹を吹き込んだ。来日したメリルにインタビューし、彼女が今後目指しているものについて話を聞いた。
アカデミー賞をすでに3度も受賞しているメリルだが、このまま行けば、キャサリン・ヘプバーンのもつ史上最多4度目の受賞に手が届くのではないだろうか。メリル自身は「あまりにも多すぎてみんなうんざりしてるんじゃないかしら」と苦笑い。
「私はついてると思うの。だって、私が女優としてデビューした頃は40歳以上の女優なんてあまり仕事がなかったから。いま65歳で仕事があること自体がありがたいし、私に仕事をくれる人がいることが、とにかく感謝したいわ」と、メリルはどこまでも謙虚だ。
『イントゥ・ザ・ウッズ』は、『シカゴ』(02)のロブ・マーシャル監督最新作。シンデレラ、ラプンツェル、赤ずきんなど、願いを叶え、めでたしめでたしとなったはずのおとぎ話の主人公たちが、予想外の運命に翻弄されていく。
監督についてメリルは、演出力と人柄の両方で太鼓判を押す。「監督はエゴが強い人が多いんだけど、ロブはとても謙虚で優しい人よ。だからキャストが彼の下へ集まって来る。また、準備を万全にやる監督で、今回も1か月間リハーサルをやったわ。撮影に入った後は、みんな自分が何をするかがわかっていたから、結局、映画の予算も、撮影にかけた時間も少なくて済んだの。それは、すべてロブのおかげね」。
メリルは、以前、本作のミュージカルを見た時、非常に音楽が記憶に残ったと言う。「『Children Will Listen』を聴いた時、ずっと頭に残っていたの。今回、その歌を歌えることがすごくうれしかった。(作詞・作曲のスティーヴン・)ソンドハイムさんは、今世紀で最も偉大な作曲家だもの」。
メリルは、同曲を歌う魔女役を演じるために、しっかりと体力づくりをした。「歌を歌える肺を作るために、毎日1マイル(約1.6km)泳いだの。とても力強い歌だから、それだけ歌える肺を作る必要性があったから。やっぱりこの映画は、音楽がすべてだと思うわ。音楽でみんなが気持ちを高ぶらせることができる。仕上がった映画はとても満足感がいくものだったわ」。
実はメリル、女優としての初舞台は、ブロードウェイのミュージカルだったのだ。「私は音楽が大好きなの。音楽で観客とダイレクトにつながると思うし、人の心を惹きつける魔力があると思う。実は、私はいま、新しい作品に入ったところなんだけど、それが世界でいちばん下手なオペラ歌手役なの。フローレンス・フォスター・ジェンキンスという女性歌手で、彼女は非常にお金持ちだったから、コンサートなどの料金を全額支払って、自分で歌っていたわ。でも、とにかくド下手。ただ、若い時から音楽を追求したいと思っていたから、夢が叶ったということね」。
この映画は、実在した伝説的なオペラ歌手、フローレンス・フォスター・ジェンキンスを描く『Florence Foster Jenkins(原題)』だ。メリルの歌唱力といえば、すでに『マンマ・ミーア!』(08) で証明済みだが、下手に歌うというのは難しくないのだろうか?メリルに聞いてみると「とても面白いわよ」と柔和なほほ笑みを返してくれた。
いろんな作品に出演し、毎回違う個性を輝かせてきたメリル。彼女が今後、挑戦してみたい役柄について聞いてみると「男役」と答えてくれた。「以前に、1回だけ老人の役を少しやったことがあるけど、今度は成りきって演じてみたい。男の人の心理がわかるかもしれないから」とおちゃめに笑う。
最後に、華麗なる女優道をひた走ってきたメリルに、演じることへの情熱を保ち続ける秘訣を聞いてみた。メリルは「好奇心が旺盛だからよ」と即答。「私は年々、人間に対する好奇心が増すの。役を演じれば演じるほど、もっと知りたくなるわ。人間は謎で、神秘に満ちていてる。毎回その人を頭で理解しようとするのだけど、その度に人間はそれぞれが違うんだなと実感するの。だからこそ、やりがいがあるんだと思う」。
会見、舞台挨拶、インタビューと、どのシチュエーションでも、常に穏やかな笑みを絶やさないメリル・ストリープ。女優としてだけではなく、この人は人間としても一流だ。ファンならずとも、『イントゥ・ザ・ウッズ』で彼女が見せる怪演をご覧いただきたい。【取材・文/山崎伸子】