世界最大の日本映画専門映画祭が注目する若手監督は?

映画ニュース

世界最大の日本映画専門映画祭が注目する若手監督は?

「ここにくれば、日本映画の最前線が網羅できる」と世界の映画人から熱い注目を浴びるのが6月2日から6日までドイツ、フランクフルトで開催された世界最大規模の日本映画専門の映画祭、第15回ニッポン・コネクションである。

毎年、インディペンデントの新しい才能を選出して、紹介することでも知られているこの映画祭。そこで、映画祭側に今年ピックアップした20代から、将来の巨匠の卵を3人紹介してもらった。

一人目は66分の短編『終わりのない歌』の甫木元空。本作は多摩美術大学造形表現学部映像演劇学科の卒業制作で、「父親の死から一年が経過したことを契機に、区切りとして、これまで作ってきた劇映画とは違う衝動で、突発的に作った作品です」という。

父親が生前に撮りためていた膨大の量のホームビデオから甫木元の子供時代の幸せな風景を切り取って編集したものだが、単なるドキュメンタリーの枠をこえ、父を亡くし、大人となった彼の視点で子供時代の風景をフィクションとして再構築し、それらを交互に並べることで、過去と現在、父と息子の眼差しの違いが浮きだって、失われた時間と、それでも繋がっていく家族の想いや絆を感じさせるエモーショナルな内容となっている。

二人目は日本映画大学在学中の三澤拓哉。初の長編映画『3泊4日、5時の鐘』は昨年12月のシンガポール映画祭でのワールドプレミアを皮切りにこのニッポン・コネクションを含めすでに7つの国際映画祭に招待されていて、去る4月の第5回北京国際映画祭では新人コンペティション部門で脚本賞を受賞した。

生まれ育った茅ヶ崎を舞台に、海辺の老舗旅館に宿泊する女性客たちのスリリングな心理模様がコミカルに展開していく。「脚本を書いていたときは普通の旅館を想定していましたが、小津安二郎監督の定宿だった茅ヶ崎館の撮影が可能となったことで、小津安二郎という世界共通の映画言語を作品の要素として得ることができ、海外の映画祭に行ったときも『見てみたい』と積極的に興味をもってもらえる」。

日本映画界での気になる存在としては、本作において何事も計画通りに動きたい几帳面な社会人を演じている杉野希妃という。彼女は本作ではプロデューサーも務めている。「国際映画祭で積極的に海外の映画人と交流し、関係を築いていく姿に刺激を受けますし、ある意味、師匠でもあります。いつかライバルとして見てもらえる存在になれれば」。作品は今秋、新宿K’s cinema他にて公開予定。

三人目は立教大学現代心理学部映像身体学科出身の田代尚也。学生時代、特殊メイク・特殊造形で知られる西村映造と知り合ったことから、このジャンルでの映画作りに開眼。今回、ニッポン・コネクションで上映された『鼻目玉幸太郎の恋』は緊張状態に陥ると、鼻から目玉がとび出てしまう鼻目玉人間の特性を悩む青年の悲哀と恋の受難をコミカルに描いたもの。

塚本晋也や三池崇史、『悪魔の毒々モンスター』シリーズで知られるトロマ社への偏愛を露わにした引用場面を駆使し、キッチュな世界を作り上げている。主演の幸太郎役には「獣電戦隊キョウリュウジャー」の塩野瑛久、ヒロイン役には「仮面ライダー電王」「仮面ライダーディケイド」のナオミ役で知られる秋山莉奈を迎えるなど、自主製作とは思えない豪華なキャストに驚かされる。

「父親が落語家なので、小さい頃から人を楽しく笑わせる芸人さんへの憧れがあり、自分の作品においてもとにかく観客に笑ってもらいたい」と、今回、フランクフルト入りの前日に頭をちょんまげ状にそり上げ、上映の挨拶と質疑応答には侍姿で登檀!このサプライズに現地の観客も大喜びだった。

まさに三者三様の世界観。ニッポン・コネクションではニッポン・ビジョンズという部門で、他にも個性豊かな気鋭の日本映画の監督たちを紹介している。ぜひ、チェックしてみてはどうだろう。【取材・文/金原由佳】

作品情報へ