渡辺謙、「王様と私」復活でニューヨーカーから大絶賛再び!
昨年、トニー賞ミュージカル部門の作品賞を受賞し、自らも主演男優賞にノミネートされたブロードウェイ・ミュージュカル「王様と私」の舞台に、渡辺謙がカムバック。昨年よりも更に気迫あふれる舞台で、再びニューヨーカーたちを魅了した。
ニューヨークと言えば、全米一シビアな街として知られている。MLBのニューヨーク・ヤンキースでは、例え日本では超一流選手だったとしても、成績が芳しくなければ「日本は試合数が少ないから通用しただけ」などとボロクソに叩かれるが、実力が認めれれば、無条件に称賛される。そしてそれはアートの世界でも同じことだ。
これまでの日本の歴史を考えても、渡辺謙ほど老若男女を問わず全米の人々から知られている人物は他にはいないと言っても過言ではない。というのも、NYアッパーイーストサイドのご婦人たちは野球を見ないし、今年、“白すぎるオスカー”と揶揄されたように、アカデミー賞にノミネートされたとしても、多くのヒスパニック系や黒人など庶民が、観賞しないどころか存在すら知らない映画ばかりだというのが現実。さらに日本映画は、やはりマニアックな世界だからだ。
そんな中、『ラスト・サムライ』(03)でのオスカーノミネート、『バットマン ビギンズ』(05)、『インセプション』(10)といったハリウッドの大ヒット作に出演している彼は、ここアメリカで、日本人として長きにわたって活躍し続けている唯一無二の存在であることは間違いない。さらに、ブロードウェイでの成功を収めたことで、一般市民だけではなく、アートを追求するニューヨークのメディアも制覇してしまったわけで、渡辺謙の再演を待ち望んでいた人々は多かった。
さらに、胃がんをものともせず、3月17日から舞台復帰を果たすべくニューヨーク入りしたものの、代役の怪我で急遽8日からニューヨークのリンカーンセンター・シアターにあるビビアン・ボーモント劇場に立ったことで、ニューヨーカーたちの感動も一際だったようだ。
昨年4月から7月までの舞台から、約8か月のブランクを全く感じさせないセリフ回しに、華麗なるダンスシーン。そして、セリフがなくともキリっとした表情で、舞台いっぱいに主役としての存在感をアピールする様は、まさに圧巻だ。王としての威厳、トニー賞主演女優賞を受賞したケリー・オハラ扮するイギリス人家庭教師との文化の違いに翻弄される苦悩を、時には面白おかしく身体全体で表現し、会場の笑いも誘いながらの演技で、満席の客席は、スタンディングオベーションの嵐が吹き荒れた。
観客に意見を聞いてみると、「やっぱりケンじゃなきゃね。去年見たんだけど再演と聞いてまた見に来たの」「ケリーとの相性が最高ね!」「キャストでこんなに違うって、改めて認識させられたよ」「高いチケット代を払う価値があると思った」「昨年より迫力があるかも。がんの手術から1か月とは思えないわよね」とリピーターも多数いることが発覚。また、「『ラスト・サムライ』のときもそうだったけど、顔だけで存在感がすごい」と皆満足そうに笑みを浮かべて会場を後にする様子が印象的だった。
観劇後に、ラッキーにも楽屋にお邪魔することができたが、身体を張った3時間にわたる舞台の直後とは思えないほどの“神対応”には、ただただ驚かされるばかりだ。
「ケリー・オハラがもうすぐ舞台を去ることもあって、再演を決めた」という渡辺に、カーテンコールで大絶賛を浴びながらガッツポーズともとれるポーズをとった件について尋ねてみると、「大体お客さんの反応は、一幕目が終了するまでに分かります。共演者の方たちとはすんなり入っていくことができたし、観客の皆さんとの一体感を感じられて、自然に出てきたリアクションです。今日はとても反応が良かったと思います」とご満悦の様子。また、英語にも関わらず余裕に見える点については、「毎回毎回、一杯一杯で余裕はありませんよ」と笑ったが、舞台は生ものであるがゆえに、早くも昨年とは違った新しい感触を掴んでいるようだ。
1989年には急性骨髄性白血病を患い、生死のふちを彷徨ったことがある渡辺とあって、ステージ1の胃がんはまるで何もなかったかのよう。舞台後の疲労など、全く感じさせなかった。また、「儚げながら、凛とした強さを持ち合わせる」と渡辺が敬愛する妻の南果歩の乳がん手術も無事終わり、転移がなかったとのことは、何よりの朗報だったに違いない。
アメリカに住む日本人として、「日本人としての誇り」を感じられる稀有な時間を与えてくれた渡辺は、万全の態勢をとり、4月17日まで全力で舞台に挑む。【取材・文 NY在住/JUNKO】