『ジャングル・ブック』の松本幸四郎、宮沢りえ、伊勢谷友介が語る、生身の役者の必要性
ディズニーが放つ21世紀版『ジャングル・ブック』(8月11日公開)は、ジャングルの動物に育てられた少年モーグリ以外をすべてCGで表現したという新時代の実写映画だ。本作で、日本語吹替版ボイスキャストとして参加した松本幸四郎、宮沢りえ、伊勢谷友介にインタビュー。革新的な映像や本作に込められた深いメッセージを、彼らはどう受け止めたのか?
4月15日の全米公開後、3週連続週末興行成績第1位を獲得した本作。CGで描かれた動物やジャングルのリアルな映像に驚嘆したという3人は、人間もすべてフルCGの実写映画が作られる昨今、役者としての危機感を感じていたりするのだろうか?
幸四郎は「そうですね。舞台がいつか全部ロボットになっちゃったりしてね」と笑う。「実際、いまの世の中で、歌舞伎役者はよく生息できているなあと思っています。だんだんそういう時代になっていくのでしょうね」。
現在、唐十郎の舞台「ビニールの城」の稽古中だという宮沢は、生身の人間ならではの情熱や素晴らしさを口にした。「唐十郎さんの戯曲はとても熱を帯びた作品で、役者さんが体中に汗をかいて台詞を言っている姿を見ると、とてもロボットにはできないことだなと思います。芝居とか作風とかそういうものを超えて、人が懸命にやった時に流れる汗は本当に美しいと思うし、絶対にテクノロジーも太刀打ちできない良さだと思っています」。
伊勢谷は、『ジャングル・ブック』について「本作は、少年が芝居をしたものにCGで動物やジャングルを被せて作っているんですよね。たぶんいくらアニメやCGが追いかけても無理なところを、技術のおかげでちゃんとくぐりぬけている。だから有機的なものと合致したものになったんじゃないかなと。僕はそういう希望的観測で見ました。でもそのぶん、今後はウソの芝居がやばくなってくる可能性はありますね」と語った。
本作で、主人公のモーグリは、赤ん坊の頃に黒ヒョウ・バギーラ(松本幸四郎)に救われ、オオカミ・ラクシャ(宮沢りえ)の下で育てられていく。やがてモーグリは、人間に復讐心を抱く残忍なトラ、シア・カーン(伊勢谷友介)と対峙していく。
宮沢は、ラクシャを演じてみて、子育ての仕方にとても心が響いたと言う。「私も母親なので、子どものそばにいて可愛いがることだけが愛情ではなくて、時には強さをもって引き離すことも、大きな愛情につながるんだなと感じました。また、自分自身も、ハードルが高くて大変な仕事をしている時の方が、自分を成長させてもらえる機会が多い気がします」。
伊勢谷が「じゃあ、ご自分の子も谷へ?」と聞くと、宮沢は「そうですね。時には落とさないと」と笑いながらうなずく。伊勢谷も同意し、「僕もそういうふうにやってもらわないと、頑張る子になれない気がしますね。人によるのかもしれませんが、放っておいてくれるのが最高なんです。僕は勝手に進んでいって、突き落ちたみたいです。つい先に歩いていっちゃうから」と苦笑い。
幸四郎は、バギーラへの役作りをこう振り返った。「僕は日本語吹替を初めてやったのですが、バギーラの顔を見ているうちに、ああ、やつはきっと若い頃、我が子を亡くしているなと思ったんです。そしたらバギーラの目が以前と違うふうに見えてきて、モーグリに対する愛情も違っていきました。CGなのに動物の表情が心に迫ってきたんです。これは勝手な役作りですが、そう思えました」。
宮沢は「動物の表情は本当に深いですね」と共感する。「アフレコの時、ある部分を何度も繰り返して見たのですが、何度も見ている映像なのに、どんどん深く心に入ってくるんです。そこが素晴らしいと思いました。主役級の動物たちだけじゃなく、たくさん集まったすべての動物たちもオリジナリティにあふれていて、丁寧に作られているなあと感動しました。本当に隅々までみずみずしい。それぞれの存在が満ち満ちとしています」。
彼らが丹精を込めて命を吹き込んだ動物たちは、鬱蒼としたジャングルを生き生きと駆け回っている。いまの時代の最新テクノロジーと、生身の人間の演技を融合させた映像革命を、劇場で体感してみて。【取材・文/山崎伸子】