新海誠監督が『君の名は。』で一番こだわったのは「時間軸」

インタビュー

新海誠監督が『君の名は。』で一番こだわったのは「時間軸」

次世代を担うアニメーション監督として業界の期待を集め、最新作『君の名は。』(8月26日公開)でメジャー作品に初挑戦した新海誠監督。これまでファンの心を掴んできたセンチメンタルな作風は本作でも健在だ。そんな、感情に訴えかける作品世界を構築するための秘訣を聞いた。

一番こだわったのは作品の“時間軸のコントロール”だったと話す
一番こだわったのは作品の“時間軸のコントロール”だったと話す

「僕の作品は実写と置き換え可能だとたまに言われるんですが、それは不可能だと思います」と言い切った新海。彼の作品の特徴としてよく挙げられるのが、美しい精緻な風景描写だ。「緻密に描いているように見えるかもしれませんが、実は思い切り主観的に抽象化しています。アニメーションだからこそ、キレイな要素だけをうまく強調させられるんです」。

さらに本作では、ストーリーの特性を活かすために「これまで以上に風景を美しく描く必要があった」と振り返る。「『こんなステキな景色や人々に囲まれて育ったこの人は、どんな子なんだろう』という、互いを取り囲む世界を通じて男女が惹かれ合う話を描きたかったんです。なので、東京に住む高校生の瀧(神木隆之介)が田舎町の景色に、糸守に住む三葉(上白石萌音)が都会の景色に見とれるシーンを、いくつか入れています。それが濁った風景になってしまうと、観客が2人に感情移入できないですからね」。

『君の名は。』は8月26日(金)より公開
『君の名は。』は8月26日(金)より公開 [c]2016「君の名は。」製作委員会

そんな赤の他人だった主人公2人の、夢の中での“入れ替わり”がキーになる本作。「入れ替わりモノの名作は過去にたくさんありますが、物語のゴールが“どうすれば元に戻るのか”というのは現代の映画にはもう似合わない。一番描きたいテーマは“互いに手を伸ばし合う思春期の関係性”だったので、あくまで入れ替わりの設定はエンタテインメント性をキープするための“装置”なんです」と新海は語る。

確かに本作では、過去作に比べてエンタテインメント性がグッと上がっている。それはキャラクターのコミカルな描写や、スタジオジブリ出身の安藤雅司やキャラクターデザインの田中将賀を迎え入れたスタッフィングからも窺えるが、新海監督は今回一番にこだわったポイントとして「時間軸のコントロール」を挙げた。

「本編尺の107分に喜怒哀楽を詰め込みました。そして、観る人に予想もさせず飽きさせもせず、映画の方が観客の理解よりも常に少しだけ先を行っていて、でもときどき立ち止まって観客が追いつく瞬間をつくって、そこからまた引き離して…。観客の目線でひたすらシミュレーションしました。107分が一つの大きな音楽になるようにイメージしていきましたね」。

新海の計算は“泣ける”ストーリー性にも現れている。「誰にでも刺激されてると泣いてしまう心のウィークポイントがあって、僕の映画を切ないと思ってもらえるのは、そういう部分を少し押すことができているのかもしれないですね。僕らはその技術が仕事なので、もう計算しかないです(笑)。もちろんそういう計算を始める前の段階として、ひたすら自分の内面を掘り下げる過程を経ていますが」。

【写真を見る】「これまで以上に風景を美しく描く必要があった」と明かした新海誠監督
【写真を見る】「これまで以上に風景を美しく描く必要があった」と明かした新海誠監督[c]2016「君の名は。」製作委員会

作品が完成し、約1か月。キャンペーンで全国を周り、公開を間近に控えながらも「まだお客さんに見ていただけていないので、達成感が湧かない」とはにかんだ新海。気が早いが、次回作の展望を聞いてみた。

「これまでの作品も男女の思春期を題材にしてきましたが、“描き切った”という気持ちはまだないんです。先日、岩井俊二監督と対談をしたときに『リリイ・シュシュのすべて』(01)や『花とアリス』(04)を見返したんですが、僕の作品にはない“青春”の側面がありました。あと『レオン』(94)のような、おじさんと子どもという設定にはぼんやりとですが興味はあります。ただ自分の興味だけでは映画はつくれないので、時代の空気を感じて、皆さんにいま見たいと思われているような作品をつくっていきたいです」【取材・文/トライワークス】

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