原作ファンにも刺さる!シネマ歌舞伎版「ワンピース」に感じた小細工なしの“本気度”
昨年上演され、チケットが入手困難になるほどの盛り上がりを見せた「スーパー歌舞伎II ワンピース」。そんな同作がシネマ歌舞伎となり、10月22日(土)より映画館で公開される。ファンの間では賛否両論となったこの歌舞伎版「ワンピース」を熱狂的なファンで映画ライターの村山章氏はどう見たのか、率直な意見とともにその魅力に迫る。
キャラの再現度など“ここまでやるか!”と驚愕
「ワンピース」を歌舞伎にする。誰がどう考えても無謀すぎるプロジェクトだが、歌舞伎界からのアンサーは「小細工なしの正面突破」だった!ルフィを始め個性あふれるキャラたちにここまでビジュアルから寄せてくるとは予想外。そして見た目以上に、原作・アニメのテンションに勝るとも劣らぬキャスト陣のパワフルな演技に圧倒される。特に坂東巳之助が演じるボン・クレー(ゾロ役も)の再現度の高さは神レベル。ルフィの伸びる腕を人海戦術で表現するなど原作の荒唐無稽な描写を実現させたアイデアの数々も楽しい。とにかく“ここまでやるか!”という驚きと、全力で「ワンピース」に立ち向かった本気に感動すら覚えてしまった。
“なんでもアリ!”な、ごった煮感がクセになる
歌舞伎というと敷居が高いと感じるかも知れないが、そもそもは万人を楽しませる大衆芸能。「ワンピース」でも歌あり踊りありの賑やかなお祭り騒ぎが繰り広げられる。舞台上に滝のごとく大量の水が流れ落ちたり、劇場全体に吹雪が巻き起こったりと大仕掛けの演出も見どころ。プロジェクションマッピングやアクロバティックな宙づりも駆使していて“なんでもアリ!”なごった煮感がクセになる。ストーリーの中心となるのが「インペルダウン篇」「マリンフォード決戦篇」と原作・アニメでも盛り上がりまくったエピソードなので、エース、白ひげ、黒ひげと舞台が濃いキャラで埋め尽くされるのもお祭り感を盛り上げる。
“心意気が一番大事である”というテーマがシンクロする
「ワンピース」の魅力とは、賑やかな世界観や愉快なキャラクターにあるのはもちろんだが、核となっているのは胸を熱くする“心意気”である。いったい何のために冒険の旅をしているのか、なぜ悪どい連中と戦ってしまうのか、なぜ行きずりの誰かとあんなにも熱い友情で結ばれるのか?答えは簡単だ。ルフィも仲間たちも、そうすることが一番自分に正直で、そして何よりもワクワクするからだ。スーパー歌舞伎バージョンの「ワンピース」では、まさに「ワンピース」の物語と同じ興奮を圧倒的なパフォーマンスから感じることができる。国民的な人気マンガとがっぷり四つに組んで、どうやったら一番楽しいのか、どうやったら一番ワクワクするのか、どうやったら演者も観客も一体になれるのか?ルフィ役と演出を兼ねた市川猿之助と歌舞伎界のチームは無謀なチャレンジを本気で楽しんでいる。
というように、コアなファンである村山氏をもうならせた本作。2017年には再演も決まっているが、まずは原作ファンも必ずや楽しめて、その心意気に触れることができる「シネマ歌舞伎」版を、ぜひご覧いただきたい。【文/村山章 構成/トライワークス】