小栗旬が父親視点で語る『ミュージアム』

インタビュー

小栗旬が父親視点で語る『ミュージアム』

役者を容赦なく追い込み、研ぎ澄まされた演技を引き出してきた『るろうに剣心』シリーズの大友啓史監督。今回、初タッグを組んだ『ミュージアム』(11月12日公開)の小栗旬も、猟奇的殺人鬼と対峙する沢村刑事役で、正気と狂気の入り交じる境地に立たされたと言う。小栗は完成した映画を観て「自分でも初めて見る表情みたいなものがありました」と手応えを口にした。

原作は、過激な描写と緻密に練られたストーリー構成が話題となった巴亮介の同名コミック。雨の日だけに起こる猟奇殺人事件を追う刑事の沢村久志(小栗旬)が、カエルのマスクを被った殺人鬼=“カエル男”(妻夫木聡)に翻弄されていく。やがて沢村刑事はカエル男の次のターゲットが自分の妻子だと気づき激しく動転する。

小栗は原作コミックを読んでから脚本を手にした。「ここ最近やっていないような役で自分にとってチャレンジングだったから、これは楽しみだなと素直に思いました。ただ、いまキラキラした映画が流行っているなかで、果たしてこういう映画を観たい人たちがいるんだろうか?と思ったのも正直なところです。でも自分はこういう映画が好きだし観たいとも思ったし、こういう映画が多くできればいいのにと思うところもあるのでやらせてもらいました。また、大友監督とは以前お会いする機会があり『いつかやりましょう』という話をしてくれていたので、良いタイミングで出会えたなと思いました」。

家庭を顧みず、がむしゃらに仕事をする沢村刑事に、小栗は少なからず共感を覚えたと言う。「男から見ると沢村の生き方は好きなんですよ。僕の親父もどちらかというとそういう人だったけど、締めるところでは締めてくれていたという感じでした。でも、沢村は息子の誕生日もすっかり忘れてしまっている。時代も変わり、沢村のような生き方はいまの日本の社会ではあまり許されないですから」。

自身も子を持つ父親として、沢村と自分自身を重ねてしまうこともあったそうだ。「結婚して子どもが産まれることに対して、なかなか現実に身を置くことの難しさはあっただろうし、仕事に逃げている部分もすごくあるとは思います。家庭的な部分は全部妻の遥(尾野真千子)に任せてしまい、仕事という自分の得意分野に没頭することで現実逃避している部分があるのではないかと。『わかるわかる、父親になるということは大変だよね』と、今回の沢村役を通してシンパシーを感じる瞬間もありました。でも、できあがった映画を観ると、『沢村、お前もうちょっと家庭を見なきゃだめだよ』と思ったりもしましたが(苦笑)。俺の方がまだやっていると思います」。

劇中では、妻・遥から最低な父親だと罵倒されるシーンもある。「まあ、俺もけっこういろいろと言われているので。自分も役者という変な仕事をやっているから、子どもといられる時間が少ないこともありますし。最近は一緒にいられる時は頑張って一緒に過ごしています。でも『頑張ろう』と思っている時点でどうなんだろうとも思ってしまう。最初の頃、子どもが自分のことを父親だと思っていなかった時間もあり、『この子にとって俺は一体何なんだ?』と思うこともありました。傷つく時は傷つきますよ。いまは帰ると走ってきてくれたりするので、そうなると幸せだなあと思ったりします」。

後半の監禁されるシーンにおいて「自分も監禁してください」と申し出て、現場とホテルを行き来するだけの状態に身を置いたという小栗。「撮影が12月の暮れで町はクリスマス一色だったので、そこには絶対に行きたくないと思ったし、家に帰って家族と過ごすのも無理だと思ったのでホテル住まいをさせてもらいました。そのおかげで作りものではない狂気が出せたんじゃないかなと。気がついたら『この人、本当に人を殺しそうだな』という感じになれたし。映画を観て『俺、こんな顔ができるんだ』というものが確かにあったので自分でも面白かったです」。【取材・文/山崎伸子】

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