80年代ニューヨーク・アンダーグラウンドの代表的映像作家として知られるリチャード・カーンの主要作6本が、「ハード・コア~リチャード・カーン・フィルム・セレクション~」と銘打って日本初公開された。ジャック・スミス、アンディ・ウォーホルの実験精神と、パンク・ムーヴメント以降のメンタリティーを引き継ぐ彼の映像は同じ背景の下に誕生したオルタナティヴ・ロックとの相性がよく、主にライヴ・ハウスでのバンドの演奏とともに上映されていた。製作はカーン自身のスーパー8(8ミリカメラ)によって小規模に行われたものだが、リディア・ランチ、ジム・フィータスらのミュージシャン、ニック・ゼットらの同志的な映像作家を初めとする積極的なコラボレーションは、当時のニューヨーク・アート・シーンの層の厚さを確実に伝えている。今回紹介されたのは、主に80年代中期の作品であるが、カーンはその後も年数本の作品を発表する一方、近年では、キング・ミサイル、アンセインなどのビデオ・クリップの監督として、また写真家としても活躍している。 <グッドバイ・42ndストリート>わずか30ドルで製作されたカーンの処女作。風俗街をうろつく手持ちカメラの映像に、後の作品にも偏在する性的・暴力的なイメージが挿入される。音楽はリディア・ランチ、クリント・ルイン、ノーマン・ウェストバーグ。出演はベス・B、R・ディッケンズ。1983年製作、カラー、スタンダード、4分。 <ストレイ・ドッグ~マンハッタン・ラヴ・スーサイドより~>連作短編『マンハッタン・ラヴ・スーサイド』中の一編として製作された作品。アーティストを追いかけるファンの執着が、ブラック・ユーモアに満ちた寓話として鮮烈にカリカチュアされている。嫉妬のあまり、ファンの男の体がぼろぼろに崩れて行くラスト・シーンは、それを超然と笑い飛ばすアーティストの表情と相俟って、とりわけ圧巻。主演の2人(ビル・ライス、デイヴィッド・ヴォイナロヴィッチ)は、ニューヨーク在住の実際のアーティストである。音楽はJ・G・サールウェル。1985年製作、カラー、スタンダード、12分。 <サブミット・トゥ・ミー> カメラに向かって挑発的なパフォーマンスを繰り広げる、リディア・ランチ、ラング・レッグ、クリント・ルイン(別名ジム・フィータス)、クルエラ・デヴィルら、カーンの朋友たち。セックス、同性愛、SM、ドラッグ、暴力、殺人など、カーンの真骨頂とも言える即物的なイメージがたたみかけるように連射される。音楽はデビューして間もないバットホール・サーファーズ。1985年製作、カラー、スタンダード、10分。 <フィンガード>ハードコア・ポルノにも勝る過激な性描写とダイアローグに加え、クールなカメラワークから編集テクニックに至るまで、カーンの力量を余すところ無く示す一編。トラッシュ・ムービー版“ボニー&クライド”とも言うべき明確なストーリー・ラインの中にカーン映画のエッセンスがちりばめられている。テレフォン・セックスに興じる娼婦(リディア・ランチ)が野蛮な男(マーティー・ネイション)と出会い、セックスと殺人を繰り返しながら、車で旅をする。ベルリン映画祭で上映されたほか、各国で上映禁止騒動を起こした問題作である。脚本はカーンとランチの共同、撮影・編集はカーン、音楽はJ・G・サールウェル。1986年製作、カラー、スタンダード、24分。 <XイズY>ニューヨークのバンド、コップ・シュート・コップによるエレクトリック・ノイズをバックに、女たちと銃器にまつわるイメージがコラージュされる。90年代に入って、カーンの方法論はますます先鋭化を極めると同時に、社会的な概念をも獲得している。1991年製作、カラー、スタンダード、4分。 <デス・ヴァレー'69>オルタナティヴ・ロックの雄、ソニック・ユースの同名曲のために作られたビデオ・クリップ。彼らのライブ・シーンに、爆撃機やビデオで撮られた殺人現場の再現、自作「サブミット・トゥ・ミー」からの流用といった死を連想させる映像が暴力的にカット・インされる。ちなみにソニック・ユースのアルバム『EVOL』のジャケットはこのビデオ・クリップからのリディア・ランチのショットの流用。監督はカーン、ジュディス・バリー、ソニック・ユースの共同、製作はバリー、エグゼクティヴ・プロデューサーはアニー・ゴールドソン、撮影はカーンとバリー、編集はデイヴィッド・O・ワイスマン、ブルース・トヴスキー、バリー、カーンがそれぞれ担当。1986年製作、カラー、スタンダード、6分。
キャスト
R・ディケンズ
ビル・ライス
Artist
デイヴィッド・ヴォイナロヴィッチ
Fan
リディア・ランチ
Cruella Deville
Lung Leg
クリント・ルイン
Marty Nation
Emilio Cubeiro
Pete Haslel
Tomoyo
Jackie O.
Linda Serbu
Casandra Stark
Cristina
ソニック・ユース
スタッフ
監督、脚本、製作、撮影、編集
リチャード・カーン
監督、製作、撮影、編集
ジュディス・バリー
監督、音楽
ソニック・ユース
脚本、音楽
リディア・ランチ
製作総指揮
アニー・ゴールドソン
音楽
クリント・ルイン
音楽
ノーマン・ウェストバーグ
音楽
J・G・サールウェル
音楽
バットホール・サーファーズ
音楽
Cop Shoot Cop
編集
デイヴィッド・O・ワイスマン
編集
ブルース・トヴスキー
字幕
柳下穀一郎
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