カトリーヌ・ドヌーヴ
トリスターナ
数奇な運命にもてあそばれて、多難な人生を歩む、薄幸の美女の愛と憎しみを描く。監督は「昼顔」のルイス・ブニュエル、ベニート・ペレス・ガルドスの小説をブニュエルとジュリオ・アレジァントロが脚色、撮影はホセ・F・アグアーヨ、音楽はクロード・デュランが各々担当。出演は「幸せはパリで」のカトリーヌ・ドヌーヴ、「夜の刑事」のフランコ・ネロ、「ビリディアナ」のフェルナンド・レイ、その他ロラ・ガオス、アントニオ・カサスなど。
幼ない時に父を失い、十六歳の時、母が死んだトリスターナ(C・ドヌーブ)は、母の知人ドン・ロペ(D・レイ)に引き取られた。ドン・ロペは貴族であり、職業を持たず、先祖から伝わる土地や財産で食べていた。人間で一番幸福なのは働かない事だと彼は言う。しかし、一九二〇年代終りのこの頃では、そういった生活は苦しいものだった。邸にはサトゥルナ(L・ガオス)という女中が居て、トリスターナは、ロペの簡単な身のまわりをすれば良かった。或る日、サトゥルナの息子達と遊ぶうちに教会の鐘楼に登った彼女は、鐘をつかせて貰った。その夜、トリスターナは無気味な夢を見る。鐘にぶら下がってカッと眼をひらいたドン・ロペの生首だった。彼女は、悲鳴をあげて目を覚ました。ロペが来て、気を落着かせるが、彼はトリスターナのゆるめた寝間着の下の胸のふくらみが意外と成熟しているのを見逃さなかった。そして彼は、暮しがいよいよ苦しくなっているのもいさいかまわず、喫茶店に入りびたり、またトリスターナをわが物にと心がける。或る夜「愛とは自由なものだ。鎖も祝福もいらぬ」と語り、トリスターナを組み敷いた。そのうち、ドン・ロペは風邪をひく。病いに臥せる姿に老醜が浮かんだ。「自由とはいっても限度があるのだ、それお前自身で判断して、儂の名誉とお前の愛情を保つのだ」と彼は訂正した。ロペの風邪が治るとトリスターナは久し振りに外出して、画家のオラーシオ(F・ネロ)と知り合う。彼女は度々外出しはじめ、夜遅くにまで及んだ。嫉妬するロペに対し、彼女は「私は自由よ。そう言ったでしょ」と答える。オラーシオを知ってからトリスターナは以前にも増して親切になるドン・ロペを心から憎み始める。彼女の過去を聞いたオラーシオは一度は怒るが、一緒に生活しようと決心する。そして「お前の母から、お前を後見し、名誉を守るよう遺言されている儂だ!」というドン・ロペに「名誉ですって!あなたのおかげで、私はそれを失くしたのに!」とトリスターナは応酬し、私は出ていくと言う。その夜、オラーシオに掛け合いに行ったロペは、てもなく殴り倒される。翌日、二人は出立した。「また戻る。きっと戻ってくる!」とドン・ロペは呟いた。ロペと仲の悪かった姉(A・カサス)が突然死に、巨額の遺産がころがり込んで来た。今迄に売った家具、食器を買い戻したが、ロペはトリスターナが忘れらなかった。そんな或る日、サトゥルナがトリスターナが町に戻ったと告げに来た。足にデキモノが出来て、トリスターナのたっての願いで町へ戻ったとオラーシオは言った。足の切断という手術が必要だったのだ。彼女はドン・ロペの家に引き取られた。トリスターナはすっかり冷たい女となっていたがロペは溺愛する。オラーシオは去った。老衰が目立つロペだが、毎日、彼女の車椅子を押し、散歩を続け、トリスターナの冷たい素振りにも耐え続ける。そして、結婚してくれと言った。トリスターナは鼻でせせら笑うが、後日二人は結婚する。かつては無神論を唱えたロペは教会で式をあげ、神父を招いてもてなす好々爺となった。が、トリスターナは彼と別の寝室をとり、口も利かぬ日が続いた。ある夜、ドン・ロペが発作を起こす。隣室から来たトリスターナに「医者を呼んでくれ」と言うが、居間に行った彼女は受話器を取り上げるがソッと切り、医者に電話をかけたように装う。寝室に戻ったトリスターナは窓を開けた。雪が風に舞っていた。しばらく苦しんでいたロペはもう動かなくなった。トリスターナは相変らず無表情で窓を閉めた。
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