ゲオルギー・タラトルキン
Raskolnikov
ナポレオンには大量の殺人が許されて貧しい青年が未来のために因業な老婆を殺す事は許されないのか?「カラマーゾフの兄弟」に続く、ロシアの文豪ドストエフスキーの名作の映画化で青年の情熱と苦悩を描く。監督は「その窓の灯は消えない」のレフ・クリジャーノフ、フョードル・M・ドストエフスキーの原作をクリジャーノフと「壮烈501戦車隊」のニコライ・フィグロフスキーが脚色し、撮影は「その窓の灯は消えない」のヴァチェスラフ・シュムスキー、音楽を「誓いの休暇」のミハイル・ジフ、美術をピョートル・パシケビッチ等が各々担当。出演は新人のゲオルギー・タラトルキンとタチアナ・ベドーワ、その他、「ハムレット(1964)」「チャイコフスキー」のインノケンティ・スモクトゥノフスキー、「ふたり」のヴィクトリア・フョードロワ、アレクサンドル・パブロフ、エフィム・コベリヤン、エフゲニー・レベチェフ、ウラジミール・バソフなど。
第1部〈さまよえる青春〉ラスコーリニコフ(G・タラトルキン)は恐ろしい悪夢にうなされていた。人気のない通りを警官に追われ、必死に逃げようとするのだが足が鉛のように重い……逃げ場を失ってやむなく橋の上から河に飛び込んだ……目が覚めると汗びっしょりで頭痛がした。(一体どうしたんだ。こんなザマでは何も出来ないぞ!!)彼は自分の臆病さをいましめた。一ヵ月前だったろうか彼が初めて質屋に足を運んだ時から、その因業婆ぁの殺害を目論んでいたのだ。--あんな老婆の命など虫けら同然ではないか。むしろ殺した方が皆んなのためだろう--彼がこう判断したのにはわけがあった。以前、彼は「犯罪論」と題する論文を書き、犯罪者の心理分析をしたのだが、それを通じ、人間は全て凡人と非凡人の二つの範疇に分たれ、前者は世間普通の道徳法律に服従する義務を有し、後者は既成道徳を踏み越えて新しい法律を創造する力を与えられていて、その行動によって歴史に新紀元を画し、人類に無限の貢献をなすものだから凡人に禁じられている行為をも敢行する権利を持っているとの確信に至ったからだ。彼はペテルブルグの裏街に下宿し、ニヒリズムの影響を受け、郷里の母が僅かな年金の中から送金してくる学費も途絶えがちで、ほとんど飢餓状態で閉じ篭ったまま、敏感で鋭利な頭の中に空想的理論を築いたり崩したりしているうち、例の老婆を殺して、その財産を有意義に転用したら、と考えたのであった。母からの手紙によると妹ドゥーニャ(V・フョードロワ)が結婚を決意したらしい。相手は中年の男らしく聡明な彼女らしくもない。苦しい家の事情を心配してか、それとも兄のためなのか……そんな疑いも一層、彼の心を苦しめていた。七月初めの晩、ラスコーリニコフは質屋の老婆が一人っきりになっているというチャンスを掴んだ。彼は庭番の小屋から持ち出した斧を外套の下に隠し、行動に出た。手筈通り、鮮血が床を浸すと老婆は死んでいた。彼は鍵を探り、金目のものを急いでしまいこんだ。ところが、外出していた老婆の妹が意外に早く帰宅したため、彼は予期せぬもう一人の犠牲者を作る事になってしまう。無抵抗の、罪もない女を殺したのだ。うまくいった。--が、不安はつきまとい、恐しかった。だから、警察から呼び出された時は観念した程だった。幸い、事件と関係なかったが……極度の疲労と気の弛みから、彼は数日、昏睡状態に陥った。友人ラズーミヒン(A・パブロフ)の看護で意識を取り戻した彼は、ペンキ屋が容疑者として検挙された事を知る。その時、妹にプロポーズしたというルージン(V・バソフ)が訪ねて来た。かつて家庭教師をしていたドゥーニャは、先方の主人との関係を夫人に邪推され屈辱的解雇をされるが、真相が明らかになり汚名はそそがれる。しっかりした娘だから結婚したいというルージンの言葉の裏にラスコーリニコフは打算的臭いを感じとり、彼を追い返した。犯罪者の常として犯行現場に姿を現わしたラスコーリニコフはそこで、居酒屋で偶然知り合ったマルメラードフ老人(E・レーベジェフ)の死と遭遇する。この哀れな退職官吏は、病妻と子供を飢えさせながら、自分は酒びたりの自堕落な生活を送る男だったが、先妻の娘ソーニャ(T・ベドーワ)が家計を助けるため、娼婦となっている事だけはさすがに苦しんでいた。ラスコーリニコフは手持ちの母から送られてきたばかりの金を未亡人にそっくりやったりして手を尽くす。そしてソーニャと会った。澄んだ瞳でブロンドが美しい娘だった。下宿に帰った彼を待っていたのは、結婚の相談をしに出向いて来た母とドゥーニャであった。ラスコーリニコフは事件の担当がラズーミヒンの遠縁の予審判事、ポルフィーリ(I・スモクトノフスキー)だと知り、会えるよう頼む。彼はラスコーリニコフの例の論文に非常な関心を示し、その質問の鋭い切り込みにラスコーリニコフは、ともすれば自己の信念が崩れそうな思いになる。第2部〈愛は限りなく〉ドゥーニャの例の主人であったスビドリガイロフ(E・コベリヤン)の突然の来訪はラスコーリニコフを驚かせた。彼は妻の死を告げ、ドゥーニャに謝罪に一万ルーブルをあげたい、ルージンとの結婚は反対だと言う。妻を殺した噂もある男の真意を計りかねたが彼は妹に伝える。日々ますます狐独を感じるラスコーリニコフは思い切ってソーニャを訪れた。世間の常識では最も恥ずべき境遇にあるこの娘の傍にいると、なぜか不安や恐怖が消えるのだ。汚れた泥沼にいて魂の安らぎを持つ彼女が不思議だった。彼はソーニャの足許にひれ伏すと、「君に脆くのじゃない、人類の負っている苦悩にだ。君の大きな苦悩にだ」と叫ぶ。ソーニャが心の支えにしている古びた新約聖書が目にとまった。それは老婆の妹からソーニャが貰ったのだ。隣室ではスビドリガイロフが立ち聞きしていた。ポルフィーリとの会見が再び行なわれた。彼の追求は鋭く、ラスコーリニコフは焦立って叫ぶ。「貴方は僕を疑っている。捕縛しなさい。でも嘲弄すると許しませんよ!!」この時、例のペンキ屋が突然、犯行を自白したため、会見は中断される。マルメラードフの葬儀が行なわれるが、そこでソーニャがルージンから盗みの嫌疑をかけられる。全てはルージンの罠でソーニャの信用を失くす事でラスコーリニコフとドゥーニャを離反させようとしたのだ。卑劣な策略はすぐ露見したが屈辱と悲しみにじっと耐えたソーニャの姿は、ラスコーリニコフの心を大きく揺さぶった。彼はついに犯行を打明けた。ソーニャは悲痛な叫びをあげ、彼を抱きしめ、言った。「貴方が汚した大地に接吻しなさい。人殺しをしたと言うのです。苦しみを受け、自分の罪を贖わなければなりませんわ」。ソーニャは彼の不幸をともに分かとうとするのだった。その後、ソーニャの継母は発狂して死んだ。彼女は最後にソーニャに許しを乞うた。スビドリガイロフはドゥーニャにやる一万ルーブルをソーニャと幼ない子供達に提供する。そして、彼はラスコーリニコフの告白を餌にドゥーニャに迫った。彼女はピストルを向けてその情欲を拒み通す。翌朝、スビドリガイロフは自殺した。同じ日、ラスコーリニコフはソーニャに伴われ、警察に出頭して、犯行を自供したのだった。
Raskolnikov
Sonia
Porfiri
Dunia
Razumikhin
Svidrigailov
Marmeladov
Lujin
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