セルジュ・ゲンズブール
Serge
殺し屋稼業の二人のコンビに女がー人割って入った。ヤクザな仕事に浮き身をやつしながらも人生に疑問を感じる青年を通し、青春の荒廃と倦怠、そして新しい愛のあり方「ラムール・リーブル(自由愛)」を新鮮なタッチで描く。製作はアンドレ・ドバール、監督は新人のピエール・コラルニック、F・S・ジルベールの原作をフランツ・アンドレ・ブルジョが脚色、撮影はウィリー・クラント、音楽は主演であり、日本で放送禁止となった話題のエロ・シャンソン『ジュ・テーム~モワ・ノン・プリュ』のセルジュ・ゲンズブールが各々担当。出演はゲンズブールと「カトマンズの恋人」のジェーン・バーキン、ポップ・シンガーのポール・ニコラス、その他、「ハロー・グッドバイ」のクルト・ユルゲンス、「告白」のガブリエレ・フェルゼッティなど。カラー、テクニスコープ。
明け方。殺しは終った。二人の青年の荒い息遣いと足音だけが生きていた。一人はセルジュ(S・ゲンズブール)相棒はポール(P・ニコラス)である。二人の仕事は殺し屋であった。「誰もロシア人なんざ相手にしないのを、俺が拾ってやったんだ。頼むぜ、セルジュ。悪いようにはせんさ」。実際、セルジュはこの稼業には嫌気がさしていたのだった。しかし、ボスの言葉にはどうしようもなかった。仕事はフランスでカルボナ一家に対抗して来た麻薬組織のエメリー一家の破壊だった。翌日、セルジュはボスとパリ行きの飛行機に乗り込んでいた。隣に坐った女はイカしていた。ジェーン(J・バーキン)というどこかの大使の娘であり、二人の会話はどこかピントがズレたものだったが、フィーリングはピッタリくるものがあった。空港を降りたセルジュとボスはエメリー一家の待ち伏せに遭い、山の中へ連れ込まれる。話がつく筈はなく、乱闘となり、セルジュは腕に弾を喰らったが、なんとか逃げだした。ボスは蜂の巣のようになってくたばった。腕の出血は思ったより酷く、一番安全な人間として脳裏にジェーンが浮んだ……。気がついた時は彼女のベッドだった。弾は抜かれていた。こうしてセルジュはしばらく彼女に厄介になり当然のように二人は愛の歓喜に溺れていった。そんな時、突然、ポールがやって来た。彼はー人でいる時は目立たぬ男だったがセルジュと一緒の時は俄然イカした男になる変った男である。歌も踊りもこなし、そして銃の名人だった。最高のコンビなのだ。ボスの仇を討たねばならなかった。ジェーンは寂しがったが仕方なかった。手掛りを求めるセルジュとポールには口を堅くとざした連中と警察が立ちはだかり、容易ではなかった。ジェーンも一緒についてくるが、彼女とポールの折合いは悪かった。そんな時、ボスの妻がやって来た。エメリー(C・ユルゲンス)攻撃の糸口が見つかった。ヤクのアジトを徹底的にアラってみる。そして、売人をシメあげた。尻尾を捕え、全ては行動を残すだけになった。けれど、セルジュの心は虚しかった。それが何故かは彼自分も判らなかった。忘れるために、ジェーンを抱くのだった。「何もかも捨てて……南の国へ……」。彼は相棒ポールに尋ねる。「ポール!こんな渡世から足を洗いたい、若い頃はいいと思ったが……」ポールはセルジュと一緒ならどこへ行っても、何をしてもいいと思っていた。しかし、セルジュにはジェーンが居るのだ。ポールは雑踏の中へ消えた。「足を洗うそうです……俺が?そんな事……絶対イヤだ」。ポールは組織からセルジュを消す事を命ぜられる。お前がやらなけりゃ他の者を出すぞという命令に、彼は思った。「どうせ殺るなら俺の手で……」。一方、エメリーは二人の殺し屋達の仕事ぶりは噂に聞いてただけに怖気をふるっていた。そして、セルジュにボスの地位を降りる事を約束し、互の安全のため警察の中庭で会う事にした。無論、エメリーは警察にワタリをつけていた。対決が始まった。エメリーの汚なさを知ったセルジュの銃が火を吹いた。警部室のTVカメラには、エメリーの死体が写った。セルジュとジェーンは逃げた。バルドゥシュ警部(G・フェルゼッティ)の指揮で警察の手がのびるが、セルジュにはメじゃなかった。しかし、もう一人、ポールがいた。朝霧の森で二人は対決する。けれどもセルジュにはポールにむかって弾き金を引く事が出来なかった。「何て奴だ……」。ポールは呟き、拳銃を向ける。彼の頬には一雫の涙が朝霧に光っていた。銃声が一発、森の静寂を劈いた。そしてジェーンの動物的な悲鳴が森の奥へと走っていった。
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