ルジェロ・ルジェリ
Prince George De'Avreesac
あらゆる享楽に耽り尽くした貴族が酒に女に……物皆倦き々々として最早人生に何等生存の張り合いを見い出し得ず、日毎に不自然の限りを尽くした奇行を敢えてしてわずかに生き甲斐を感じて居る。此の貴族にお互いが一人である様な典型的な中年者の友情を以て結ばれた、いわゆる会心の親友があって、始終忠実な人生の伴侶者となって居る。此の不幸な貴族に新しい感激をもたらしたのは美しい或未亡人であった。其の後突然此の未亡人の姿が消えて再び人生に退屈した時、貴族は遂に殺人罪を己れが買って迄餓えたる其の生活上の感激を満たそうとした為、事は裁判沙汰にさえなったが、偶然の機会から真犯人が発覚され危うく助かる。さすが刺激に渇した此の貴族も人工的な愉快さは、遂に愛の牢獄の窮屈さにも遠く及ばないのを知り、自然に恵まれたる此の世の生活を祝福する様になった。
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