マリア・ヤコビニ
Dorina
都に遊学する青年と其の情人たる下宿屋の娘とを中心とし、若き日の歓ばしさ、哀しさ、呑気さ、苦しさを描いた作品。原作は舞台喜劇なのであろうが、それを近頃「感激は何処に」や「月光の曲(1920)」を監督して名声嘖々たるアウグスト・ジェニーナ氏が監督した。主役は「半生の紅涙」のマリア・ヤコビニ嬢。エレナ・マコウスカ嬢、ルジェロ・カポダーリオ氏出演。無声。
荷を負うてトリノに東上し、やがて大学に入った才貌兼備の青年マリオは己が下宿屋の娘ドリナと互いに恋い慕う身となった。此処に哀れを止めたのはマリオの友で少々おめでたいレオネである。彼は二人の睦まじさを見て、或は感服し、或は羨み、或は己が身を顧みて私に嘆息するのであった。しかし或時忽然と姿を現した怪しい美しい婦人エレナは楽にマリオの心を捕らえた。之が原因で、マリオは住家をかえ、ドリナと別れて一心に試験に身を入れた。やがて満点でパスしたマリオが故郷に帰る時は来た。その時である。マリオが再びあの懐かしかったドリナの事を想った。マリオに去られても尚マリオを愛しているドリナは此の時ボンヤリマリオの門辺に入りもやらずたたずんでいた。恋人二人が再び相擁した時、女は泣いてせがんだ。「いっちゃいやいや」と。しかし男はどうしても国へ帰らねばならない。重苦しい列車は冷たい轍の響きを残して、断腸の二人の若人を次第次第にとへだてるのであった。恋よさらば、嬉びよさらば、そうして青春よさらば。
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