カリオペ・サンプチニ
Rosalba
「感激は何処に」「女(1917)」「月光の曲(1920)」等に於いて真に人間味の溢れた手腕を示して愛活家を悦ばせたアウグスト・ジェニーナ氏の監督で、前二者に主演した老巧な名優アルフォンソ・カッシニ氏が老爺の役に扮し、やるせなき人の世の寂しさを出した一篇の人生悲劇である。無声。
劇場の客を相手に新聞雑誌を売って居る辻店の老爺は、昔男に欺き捨てられて死んだ己が娘の父無し子を我が手一つで育て上げ速くも十数年を経た。しかるに辻店の裏の劇場の一女優が或る道楽者に欺されて一所になり醒め易き若き日の夢を惜しんで居たが、間もなく子供が出来ると同時に男は変心他の女を漁り始めた。女は幼児を抱えて男に再縁を迫ったが色魔は此れを相手にしない。星も凍る冬の夜更け閉場になったばかりの劇場裏手に銃声が響いた。其れは憐れな女が残忍な薄情男を狙撃した音である。そして子供はやがて、十数年の夢の昔を繰り返して、又冬の辻店に老爺を暖める「火鉢」として引き取られる事になった。
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