デゥヴァン・トルゾフ
Tarass Boulba
ニコライ・ワシリェヴィチ・ゴーゴリの生涯の傑作と称せられる小説『タラス・ブーリバ』をロシアの映画製作者エルモリエフ氏が1924年ミュンヘンに於て撮影製作したものである。脚色及び監督の任に当ったのはウラジミール・ストリジェンスキィ氏で、モスクワ芸術座付俳優のデゥヴァン・トルゾフ氏、クレメンティン・プレスニエル嬢、モスクワ・エルミタージュ座の俳優で「春の流れ」に出演したオシップ・ルーニッチュ氏、プラーグ国立劇場のオスカー・マリオン氏、それにイタリア映画界の古参者の一人で、後にドイツにも渡った「海の怪」「毒草」等に出演したエレナ・マコウスカ嬢などがそれぞれ主要な役を演じている。無声。
十五世紀の頃トルコ韃靼の欧洲侵入に対してロシア及び西欧を譲らんが為に小ロシアにコザックの自由団体が起ったが、彼等は国家に対する忠誠と、自らの信仰に対する防護との為にドゥニューブル河の下流に強固な一団を結んでそこはセーチ(幕舎集落)と呼ばれていた。コザックの老職隊長タラス・ブーリバは今は農園に引込んで平和な暮しをしている。彼の二人の息子オスタップとアンドゥリイとはキエフの宗教学校を卒えて久々に父の許に帰って来ると父親ブーリバは彼等の勇気を試し立派なコザックになった事を賞し母親の悲嘆にも拘らず、翌日早速、真の活きた学問をさせる為にセーチへ連れて行く。そして忽ち彼等は対ポーランド戦の渦中に捲き込まれる。コザックの生活、彼等の戦争など、その内にも包囲を受けたポーランド軍は糧食の不足から既に陥落の瀬戸際に立った。この時、城内にあったドゥブノの将軍の娘パンノチカは日頃アンドゥリイが自分に恋している事を利用し韃靼女の侍女をコザックの陣営に潜行させて窮状を哀訴させる。情熱的なアンドゥリイは味方を捨てて糧食を持って敵陣へ走る。折も折、敵軍に救援の大軍が現れてコザックは大苦戦に陥る。しかもアンドゥリイはポーランド騎士の軍装美々しく愛人パンノチカの愛情を胸に抱いてコザック軍に殺到する。これを見たオスタップは堪りかねて肉親の弟と刄を合わせる。アンドゥリイは遂に父タラス・ブーリバの為に捕えられ、彼は黙々として銃殺される。その後の戦はコザックに益々不利となり、オスタップは捕えられブーリバは重傷を負ってセーチに退く。オスタップは敵軍によって最も残酷な死刑に処せられるが、その苦痛が極度に達した時、流石に猛き彼も思わず父の名を呼ぶ。この時、変装して見物に混ざっていた父ブーリバは「おお見ているぞ!」と叫んだ。為に彼も捕えられるが、生き残った同僚の勇敢な働きによって救われ、再びセーチに戻って亡き二人の息子のことを想出しながら余生を送った。一方、戦勝の祝宴に酔ったポーランドの城内の一隅には、逝けるアンドゥリイの墓の前に尽きぬ涙を流すパンノチカの姿があった。
Tarass Boulba
Natascha
Ostap
Anddry
Pannotchka
Yankel
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