マグナス・スティフター
デチウス
第1次大戦中ドイツが製作した驚くべき大作品の一つであって、千古の謎を包む不思議な指環を持った女の運命を描き、人は生れ変ると云うインドの思想と、嘘言を誡めるドイツの思想とを、壮麗な舞台装置と興味深い劇筋とを以て美事に表現したものである。ベルリンのマイ・フィルムの撮影でドイツ内の宮殿や博物館等の大建築物が惜し気もなく使ってある。原名は『真理は勝つ』と云うのだそうである。原作はミケランジェロ・ツォイス男爵及びヨーエ・マイ氏の思想に基ける三部曲映画劇で、ルス・ゲッツ女史及リヒャルト・フィッター氏の合作。ヨーエ・マイ氏監督。パウル・レニ氏美術監督。マックス・ルッツェ氏撮影。ディリンゲル氏衣装考案。フェルディナンド・フンメル氏が作曲したもの。
ルネ子爵と婚約のあるフォン・デル・タン大將の令嬢ヘレネはルドウィッヒ公爵と相愛の仲と成った。彼女の指には男の横顔を彫った指環があったが、一日新聞紙上に人の運命を占うに妙を得たと云うインド人の事を読み、ヘレネは彼の家を訪れる。インド人の家の前へ来た時ヘレネはたたずんで、指環にまつわる千古の謎の由来を夢みた。それはまだキリスト教徒が迫害を受けて居たローマ時代のこと。元老院議員を父とした美しき娘ヘレナは、雄々しきルチウスと恋仲であった。或日彼女は妖女の許を訪れて、奇妙な指環を一つ貰った。その表には「三度現れ、三度隠れ、終には誠が勝つであろう」と彫ってある。赫々たる巧勲を立てて凱旋した將軍デチウスはヘレナを見て父なる元老院議員に宿の妻にと申込むが、ルチウスを想う彼女は何で之を承諾しよう。デチウスは彼女には恋人のルチウス有る事を知って憤り彼を捕えてヘレナを強迫し、我が意に従わざればルチウスの命はないぞと嚇した。この時女心の浅墓にも、ヘレナはルチウスを恋して居らぬと云い、然もルチウスがキリスト教徒なる事を漏したので、デチウスは部下に命じ総ての教徒を捕縛する。大饗宴の日が来た。賓客に対する御馳走とてデチウスはキリスト教徒を、或は磔に処し、或は生けるまゝ獅子の餌食にした。我が恋人の無惨な死を眼の当り見たヘレナは、我が貞操を犠牲としてルチウスを救おうとしたものの水の泡と成ったのを見て、海に投じて花の姿を散らしたのであった。その時彼女の指にあった不思議の指環は海に沈んで数百年を経る。 <第二部>十六世紀、或るささやかな漁村に住うエリノーアと云う金銀細工師の娘があった。隣人が網で引上げたあの指輪は彼女の所有に移ったのである。村の祭の当日、彼女は若い騎士のルツと恋仲に成ったが、かつて彼女に横恋慕をして居たフロリアンは之を嫉み娘の乳母がルツを領主の公爵と偽ったのをそのまゝ信じて、領主に恨ある人々を扇動してルツを殺した。殺した後で人違いである事が判ったけれど、世を儚んだエリノーアは尼寺に身を寄せて寂しき生活に入って終う。その指輪が伝わって今我が指にあると知った時、ヘレネの夢は醒めたのであった。 <第三部>ルネ子爵はルドウィッヒ公爵附の武官と成るが、公爵とヘレネの仲を割かんとて、二人の楽しき語らいの時公爵の父君をその場に案内した。之を怒って公爵はルネに決闘を申込み、二人はその翌日の曉に銃で果し合いをする事と成る。かねて子爵が射撃に巧みなのを知って居たヘレネは、如何にもして二人の決闘を止めんと、その夜我が室に公爵を招いて、二人は永久に変らぬ誓をした。然しヘレネの苦心も空しくなり、夜の明方娘の眠った間に公爵は決闘の場所へ急いだ。所が子爵は既に冷き骸として横わって居たので、公爵は卑怯な殺人罪を犯したものとして裁判を受ける。娘の名誉を守って公爵は其晩何處で明かしたかを口外せぬ為、身に覚えなき罪を被らんとした時、真の犯人が自首して来、ヘレネも恥を忍んで公爵を我が室に引留めた事を立証した為公爵は晴天白日の身となり、二人とも父親の許しを得て、天下晴れての許嫁となる。
デチウス
フラヴィウス
ヘレナ
ルチウス
ツルルス
フチウス・アシニウス
ディグルス
盲目の元老院議員
金銀細工師ハインリッヒ
フロリアン
ウルズラ
インド人
公爵
公爵夫人
陸軍大將フォン・デル・タン
子爵ルネ・ド・モンモール
盗賊
式武官
裁判長
監督
脚本
脚本
原作
撮影
美術
衣装デザイン
作曲
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